「え?なに?ガープって孫がいんの!?」
口にくわえていた煎餅がぱりんんと歯切れのいい音を立てて砕けて、屑がぽろぽろと床にこぼれ落ちた。
「そんな驚くことじゃなかろう。わしの歳じゃ孫ぐらいいても」
将棋盤の上から静かに駒を引っ張るガープは、驚きが隠せずに狼狽える名無しを見て呆れたようにため息を吐いた。
「ガープみたいな自由人がまさか結婚してたなんて!嫁は天使か!?それとも自由人代表の天竜人か!?」
「そうだ。そもそもガープに嫁がいて俺に嫁がいないのが解せん」
「お前まで言うかダルメシアン」
駒の山をゴツい指で静かに解体していくガープは、もう片方の手でがしがしと頭をかきながら目を細めた。
海軍というのはそんなに忙しいものでもない。
一部忙しい海兵もいるが、本部は訓練や緊急時を除いては思っていたほど忙しくはなく、中将くらすが将棋崩しをして遊べるぐらいは暇だ。
「ガープの孫って言ったらあいつだろ?今噂になってるっていう麦わらのルーキー」
ジャーキーを静かに噛みながらガープの方を見たダルメシアンは、この間の事件からやけにジャーキーが気に入っているようで、暇があればずっと噛んでいる。
犬人間がジャーキー噛んでる姿ほど哀愁漂うものはないと名無しは思った。面白いから決して本人には教えてやらないが。
ダルメシアンの言葉に手元が狂ってしまったのか、ガープの指先が引っ張っていた駒を崩してしまい、落胆するような溜め息が聞こえた。
「よせ。ルフィのことを考えると頭が痛くなる…」
あの馬鹿め、と忌々しげに呟くガープの肩をダルメシアンが軽く叩く。
一見すると心配しているようにも見えるが、ダルメシアンの口にはジャーキーが挟まっておりそれを静かに噛む姿は到底心配しているようには見えない。
「ルフィって言えば、コビーもなんかルフィさんルフィさんってウザいぐらい言ってた気がする」
「ルフィは可愛いからのう」
「まさかのガープは爺馬鹿か。棚ぼたでザクザク駒が取れるわ!」
ガープが取りこぼした駒を名無しが指先で引っ張り込み自分のスペースに落としといく。ガープが派手に崩してくれたせいで取りやすい。
もう少しで将棋盤から全て引っ張り出せそうだったのだが、ダルメシアンがテーブルをわざとらしく揺らしたせいで重なっていた駒が崩れて音を立ててしまった。
「……ダルちゃん」
「うん?」
「今のは卑怯だぞダルメシアン」
わざとであろう振動に名無しとガープが訝しげに顔をしかめたが、ダルメシアンは特に気にした様子もなく、急いで駒を引っ張り込んでいく。
「名無し、こんなところで新兵が油を売っててどうする」
「今更か!新兵が将棋崩しに誘った時点で言おうぜそう言うことは!」
ぶーぶーとヤジを飛ばす名無しに軽く咳払いをしたダルメシアンは今更な発言をドヤ顔でする。物凄くムカつくが、ダルメシアンは全く悪気がないような顔をしているので言い返しにくいが。
「名無しは短気だな。ガープの孫にそっくりだ」
「なんじゃと!?ルフィは関係ないだろうが!」
「それを言うならダルメシアンなんて犬にそっくりだよ!この野郎!!」
半分以上の駒をダルメシアンが独り占めしたところで、苛々がピークに達して将棋盤をひっくり返した。
ばらばらと将棋盤から落ちてしまった駒を見てダルメシアンは哀愁漂う表情を見せ、ガープは視線で良くやったと語っていた。
中将といっしょ
「さーて新兵は仕事仕事ォっ!」
「わしもセンゴクに呼ばれてるんじゃった」
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