下手くそな口笛を吹きながら刀の手入れをしていた名無しを見て、コビーが不思議そうに首を傾げた。
ずらりと床に並んだ刀はたいして使い込んではおらず、新品同様なものまである。
「名無しさんって刀集めが趣味なんですか?」
不思議そうな声を上げながら、床に並んだ刀を指差したコビーの隣でヘルメッポがダルそうに欠伸をした。
「なんで?刀集めなんて変態みたいなことなんで私がしなきゃいけないの!」
「いつも刀見て話しかけてるお前は間違いなく変態だろ」
「うるさいケツ顎!お前こそその卑猥な顎をなんとかしろ変態が!」
「うるせぇよ。顎は生まれつきだ!」
ヘルメッポの馬鹿にするような言葉に名無しの導火線に火がついたのか、これでもかと言わんばかりにヘルメッポを捲し立てた。最初の頃はあまりの悪態ぶりに引いていたヘルメッポだったが、最近は慣れてきたのかあまり気にした様子もなく普通に返すようになってきた。
「なんだてめぇやんのかゴラァ!ケツ顎に刀突っ込んでアンアン言わせてやろーか!!」
「刀なんて入んねぇよ!てめぇのその変態思考はどうにかなんねぇのか!」
いつの間にか質問をしたコビーを差し置いて掴み合いになり、結局コビーの質問はスルーされる。
コビーだって初めのうちの何回かは止めようとしていたが、最近は無駄だと学習したのか見て見ぬフリをするようになった。
無駄どころか下手したら巻き込まれて殴られることも少なくない。
隣でボコボコとお互いを殴り合う名無しとヘルメッポを見ながらコビーは静かにため息を吐く。
こうなるとどっちかが降参するまでは終わりが来ない。
だいたいの名無し寝技が極ってヘルメッポがギブアップすることが多い。実力的には名無しの方が数段上にはなるのだろう。
雑用係になったのはただ単に実戦での功績の無さからだ。
「いででででっ!!このクソ女!離せ馬鹿!」
案の定三角絞めを極められたヘルメッポが地面を強く叩きギブアップ。名無しは立ち上がれないヘルメッポを踏み台にして談話室全体から寝技への賞賛の拍手を貰っていた。
ほぼ毎日のように行われるヘルメッポと名無しの寝技対決は、いかにして実戦で有効に寝技を使うかの議論を巻き起こしていて、たまに先輩である海兵達も覗きに来きて細かく解説をして行ったりする。
「女のクセに生意気なんだよ、名無しのヤツ」
「負けたからって性別のことは言わない方がいいと思いますよ」
忌々しげに首を押さえるヘルメッポに、コビーがぼそりと呟くと舌打ちが返ってきた。
それを聞いていた名無しは、暫く黙ったままヘルメッポを見てから自慢気に口を開く。
「私、寝技は得意ですが、夜の寝技は得意じゃないから!!」
「なにアピールだよ!気持ち悪ィアピールすんじゃねぇよ!」
「ドヤァッ!」
「うぜぇ!死ね変態!」
喧嘩するほどなんとやら
「私のことが好きすぎて結婚したいってとこまでは聞こえた」
「言ってねぇよ!」
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