「あらら、名無しちゃんなんちゅう格好してんの」
ソファでだらだらと寝転がっていた名無しは、入り口の方から聞こえた声にゆっくりと目を開けた。
スモーカーの部屋の来賓用のソファを独り占めしていたのはよかったが、いつの間にか寝てしまったらしく部屋には名無ししかいない。
勝手に部屋に入ってきたのは、スモーカーの上司にあたるというクザンだった。
上司と言うよりも気が合う飲み友達らしいが、立場的にはクザンの方が上。とりあえず本部内では上司と部下の関係を貫いているらしい。
「あー…なにかご用ですかー。スモーカーは只今席を外しておりまーす」
一応スモーカーが居ないときは留守番という名目で居座っているので仕事っぽいことはする。
とは言っても寝転がったままの状態でとてもじゃないが留守番とは言い難いが。
「そうだろうね。俺がちょっと用事頼んだから」
「マジか。さすが大将。部下を使いたい放題か」
「大将だから使いたい放題だよ」
面倒そうに首をゆっくり回しながら部屋の中をぐるりと見渡してため息を一つ。
いつも思う。海賊ならともかく、海軍のトップがこんなにやる気がなくていいものなんだろうかと。
人の心配も本人はどこ吹く風。相変わらずマイペースなクザンは心が揺れることなんてないんだろう。
強者故の余裕か、それともただの馬鹿か。
強者だなんて認めたくはないから後者に違いない。
「…名無しちゃんって、」
「なに?可愛いって?今更すぎるぞこの野郎!」
「ああ、うん」
一人がけのソファに腰を下ろして少し前屈みになりながら座ったクザンは、名無しの方に少し訝しげな視線を向ける。
なにか言いたかったのだろうが、意図的に遮ったせいで喋る意欲を削がれてしまったらしい。
普通なら可愛くないとか冗談はその面だけにしとけなんて悪態が返ってくるのだが、クザンだけは別だ。
あっさり諦めて話すこと自体を放棄する。
「言えよ!!気になるだろ!名無しちゃんってさ…何!?ちゃんと突っ込んで言葉を続けろよ!!本気でごめんなさい!」
諦めて寝るモードに入りかけていたクザンを無理矢理起こすように大きなテーブルをばしばしと叩く。
テーブルの端に乗っていたたしぎ愛用のティーセットががしゃんと不吉な音を立てたが、そんことは一切無視する。
割れたらクザンのせいにでもしたらたしぎは納得するに違いない。
「…よく生きてこれたなぁって思ってさ、そんな生き急いでちゃ死にかけたこと何回もあったんじゃない?」
「昨日ズッキーに溶かされるかと思った」
「そんな感じだよね」
感心したように名無しの方を見て一人頷くクザンは、何故か愉しそうに笑っていて軽く殺意がわいた。
只今留守番中
「この間はボルサリーノに踵落としくらった」
「ある意味貴重な体験だよね」
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