「スモーカー、暇だよね」
「暇じゃねぇよ」
スモーカーは直接の上司ではないが勝手に部屋に入るわけにはいかないので一応ノックをした。ノックをしたのはよかったが、そう易々と入れてはくれなかった。
5センチ程開いた隙間から名無しの言葉を否定したスモーカーは、そのままドアを閉めようと力を込める。
もちろんそんなことでは諦めきれない名無しは足を滑り込ませてそれを阻止した。
「暇だと思って暇潰しにゲームを持ってきたの!!ねっ!入れて!入れてってば!!」
「だから暇じゃねぇっつってんだろ!毎日毎日時間潰しにくるんじゃねぇよ!」
ぎりぎりとドアに挟まれた足が悲鳴を上げるが、正直毎日同じことを繰り返していれば足も慣れてくるというものだ。
「暑いんだもん!お願いだから助けて!!」
挟まれた足を犠牲にしながら身体を少しずつスモーカーの部屋に滑り込ませると、部屋の中から涼しげな風が廊下に漏れだしてくる。
雑用係の部屋にはクーラーなど存在しない。あるのは何年ものかよくわからない首の回らない扇風機だ。
スモーカーぐらいの立場になってくると個別の部屋だし、クーラーだって付け放題。それのおこぼれを頂くために毎日部屋に押し掛けているわけだ。
これでも気を使って色々持ってきてるのにこの冷たい反応。
もう存在自体を拒絶しているように見える。
「暑いんだもーん!入れてよー!!ちょっとぐらいなら仕事も手伝うからー!!」
無理矢理入り込もうとする名無しの身体を十手で押し返しながらドアを閉めようとするスモーカー。
それを部屋の奥でたしぎが心配そうにおろおろと見ている。
「大将のとこに行きゃあいいだろうが!俺の所に寄り付くんじゃねぇよ!!」
「行ったさ!行ったけどあいつダメなんだ!よくわかんないけど暑くないんだって!むしろ毎日が寒いって寒々しいこと言うんだよ!!」
大将の部屋が一番涼しいと思って訪ねてみたが、クザンの部屋はクーラーどころか扇風機すら動いていなかったのだ。これにはもうなにも言う気がせずに黙ってドアを閉めた。
名無しからクザンの話を聞いたスモーカーは、眉間にシワを寄せたまま目を伏せて、少し納得するように小さく声を上げた。
「ボルサリーノの部屋行ったら撃たれそうになったし、ズッキーの部屋行ったら説教されて暑苦しかったし、センゴクの部屋はこの間カモメ盗んでから出禁だし!もうスモーカーしかいないの!!」
必死で十手にしがみつく名無しに、スモーカーは大きくため息を吐き出してから閉めようとしていた手の力を少し緩めた。
「もういい。好きにしろ…」
「…なんかクーラーの為とはいえ、ここまで自虐をしてしまった自分を少し誉めてあげたい」
クーラーの為に自分を売る
「黒ひげ危機一髪の黒ひげをセンゴクに変えて、海軍崩壊危機一髪にしてみた!一緒にやろうスモーカー!たしぎ!」
「やっぱり出ていけ馬鹿女!」
「でも…センゴク元帥そっくりですね…」
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