折れない理由



目の前に聳えるのは、ポケットに手を突っ込んだまま面倒そうに頭を掻くクザン。
いつものように眠そうで、いつものようにダルそうなその姿だが、唯一違うのはその場を退く気がないというところだろう。

いつもと変わらないように見えるが、そこには断固とした意思を感じるから不思議でならない。
これがサカズキやボルサリーノならまだしも、まさかクザンから断固とした意思を感じるなんて、あり得ないことだ。


「そう言えば名無しちゃんが聞いてたね。大切なものの為にどこまで出来るかって」


頭を掻いていた手がピタリと止まって、眠そうに伏せられていた目が名無しの方を向いた。
相変わらず眠そうな目には変わりはないが、いつもと違うことはさすがの名無しにもよくわかった。

軽く睨まれただけで、身体が萎縮して喉が詰まる。
今までに何度とクザンとやり取りしてきたが、今回は今までにないほどの威圧感を感じる。サカズキにも負けず劣らずの。


「俺は殺すのは出来ねェけど……骨を砕いて止めるぐらいまでなら出来るかな」


いつもの面倒そうな声だが、冗談には聞こえない。
どこから誰が聞いても本気なのだとわかる。

そして、名無しにだってさすがに理解できたし、歴然である力の差も感じた。だからといって引くかどうかは話は別だ。


「優しい大将に感謝するわ。地獄でね」

「やっぱりこの程度じゃあ引かねェよなァ」


はあ、と大袈裟にため息を吐いて見せたクザンから白い冷気が漏れて、顔面に氷が這い上がるように広がる。
空気に触れる度にパキパキと小気味のいい音がして、徐々にクザンの身体を覆っていく。

初めてクザンの能力をまともに見たが、能力なしでも勝てる気がないのに、更に勝てる気がない。寧ろ骨を砕かれるだけで終われない気さえする。
圧倒的に強い人間を目の前にすると、負けてしまう未来が透けて見えてしまって、身体が完全に萎縮してしまう。

現に名無しの手足は、完全にクザンの空気に飲まれてしまって思うようには動いてはくれない。


「骨は治るけど心は折れたら戻らない。だからここでクザンに折れるわけにはいかない!」


怯んでしまった身体を叱咤するように声を張り上げて、持っていた刀を鞘から一気に抜いて、そのままクザンを切りつけた。切りつけたというよりも殴ったという表現の方が合っているだろう。

力の限り思い切り抜いたつもりだったが、クザンの身体に刃は入ることなく、表面の氷に刀を絡め取られた。
覇気も込めたつもりだったが、話にならない。


「名無しちゃんはいい海兵になれると思うけど、長生きは出来ないタイプだよね」

「けなしてんの?」

「誉めてるんだよ」


びくともしない刀を氷が伝ってくるのを見て、クザンを睨み付けると、珍しくクザンが笑っていた。



















折れない理由


「手荒いことはしたくねェのよ。俺も」

「じゃあ手加減して死ね」

「あららら」



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