海軍にはいたるところに手配書が貼ってある。
貼ってあるのは主に話題のルーキーだとか、金額とあまり見合わないやつが多い。
「これと、これだな!!」
床に散らばった手配書を捲った名無しは現れたルーキーの顔に舌打ちした。
一枚はルーキーとは言いたくないようなオッサンで、もう一枚はいかにも寝不足そうな男だった。
「怪僧ウルージと死の外科医トラファルガーですね」
「もう坊さんと医者になってればいいのに。副職すんなって感じなんですけど」
捲ったばかりの手配書をもう一度伏せた名無しは不機嫌そうに唇を尖らせて、名前を読み上げたコビーを見た。
「ケツ顎、次!はよ!はよっ!」
「うっせぇよ!つーかケツ顎って言うな!」
捲し立てる名無しに不機嫌そうに眉間にシワを寄せたヘルメッポは、名無しを睨み付けながら床に散らばった手配書を捲る。
現れたのはたいして有名じゃない感じの海賊と、肉が好きそうな海賊だった。
コビーが名前を言っていたが、本当に興味が無さすぎて受け流す。決して悪意があるわけではないが、生まれつきこういう失礼な癖がある。
「つーかこの間さ、海軍本部を犬人間が歩いてたのを見たんだよね。これっていいの?」
「犬人間?なんだそれ、お前頭可笑しくなったんじゃねぇの」
ヘルメッポが馬鹿にするように見下している隣でコビーが手配書を捲りながら首を傾げて名無しの方を見た。
「…名無しさん、あの」
「マジでいたんだってば!なんか頭が犬だったの!」
興奮気味に話を続ける名無しにヘルメッポの表情が少しずつ固くなっていって、しまいには目を反らした。
「今度会ったらジャーキーあげようと思って、ガープにつまみのジャーキー貰ってきた!」
ジャーキーをポケットから出した名無しは、コビーとヘルメッポに交互に視線を移す。が、2人は名無しの方を見ようとしない。
「ちょっと聞いてんの!?無視すんなって!マジで犬人間だったんだってば!!」
「あ、あの名無しさん…その話はもう止めた方がいいんじゃ‥」
気まずそうに目を伏せたままで呟くコビーは、床に散らばっていた手配書を急いでかき集める。
あからさまに挙動不審なコビーに眉間にシワを寄せた名無しは、ジャーキーを持っていた手に違和感を感じて後ろを振り返った。
「………」
振り返った先には犬人間がガープから貰ったジャーキーをかみかみと大人しく噛みながら立っていた。
「だ、ダルメシアン…中将!!」
「お疲れさまですっ!」
引き釣った声を出したヘルメッポとコビーはいつの間にか立ち上がっていて、名無しだけが情けない格好で座っている状態だ。
裏切られた感が半端ない。
「うん」
かみかみと大人しくジャーキーを噛んでいたダルメシアンが軽く頷いて、未だに立ち上がらない名無しを上からジッと見下ろす。
「……」
早く立ち上がれ、とコビーとヘルメッポの顔が必死に語っているが、自分でも何故かはよくわからないが立ち上がれる気がしない。
「ダルメシアンって…可愛いよねっ!!」
沈黙を破ってやっと吐き出した言葉は思ったよりも捻りや面白さの欠片もない言葉だった。
ダルメシアンと馬鹿
「1点」
「ごめっ…やり直しさせて!!」
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