「麦わらのルフィ?ああ、ガープの孫でしょ」
本部内の蔵書室からくすねてきた本を無造作に机の上に置いた名無しは、手のひらの埃を払うように手をパンパンと軽く叩いた。
クザンの口から出てきた人物は、コビーか以前世話になったという恩人、ガープの孫の麦わらのルフィ。
まあ、あちらこちらで名前を聞く、今を生きる有名人だ。懸賞金もここ最近でぐんと上がったと聞く。
ガープが嬉しいやら複雑やらで、微妙そうな顔をしていたのはまだつい最近のことだ。
しかも、ルフィはエースの弟で、更には革命家の父親を持つと言う噂も聞いたことがある。
血筋が血筋だけに、大人しく田舎で暮らすような子にはならなかったということだ。
「ちょっと見に行こうと思ってるんだけど、一緒に行かない?」
「あー…、行きたいけど今回はパス。ちょっとやりたいことがあるから」
いつもならすぐに食い付くところだが、今回は違う。
調べたいことがあるため、今本部を離れるわけにはいかないし、クザンがいないなら調べものをするには寧ろ好都合。
この機会を逃がす手はない。
「一刀斎には手を出さないようにね」
「え」
今まさに調べようとしていた刀の名前がクザンから飛び出してきて、思わず固まってしまった。
「探してるのは知ってるし、ある場所も知ってるけど、どうにもならないところにあるんだよね」
名無しの動揺に答えるようにクザンはため息混じりにそう呟いた。
困ったように傾げられた首と、後頭部をかきむしる仕草が妙にわざとらしく嘘臭い。
確かに最初に会ったときにも探してるものを知ってると仄めかしていた気がする。
「ヒント出しすぎでしょ。隠す気があるんだか」
大将が言うどうにもならないところ、なんて一つしかない。天竜人の手に渡っているのだろう。言えないと言ったのは言ったら突っ込んでいくのがクザンの目に見えているから。
「クザンの大切なものってなに?」
「あららら。なんの質問?」
「大切なものの為ならどこまで出来る?私は死にたくはないけどクザンを敵に回すことぐらいならできるよ」
「だろうね」
どうでもよさそうにそう言ったクザンは、名無しを軽く一瞥した後でもう一度ため息を吐いた。
クザンは誤って口走るようなタイプではないし、ぼんやりしているようには見えるが物事の核心を見ていると思う。だから、言えないと言ったクザンの反応は正しく、そして的確な言葉のチョイスだったのだろう。
最後の言葉も、全てがわかっていて言った一言のような気がした。
キミとワタシと
「怯まないところが名無しちゃんらしいよね」
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