どーぞどーぞ!



ガシャーン、と不吉な音か響いた瞬間、その場にいた全員が聞こえていなかったかのように素早く顔を反らした。


「なんだお前ら。なんでそんな薄情なんだ?」


バットを持っていた名無しは、顔を反らした全員を見渡してから大きくため息を吐いた。
気持ちのいい晴天で、しかも天敵である赤犬グループは張り切って海賊討伐に出掛けている。暇もあり、天敵もいないとなれば、みんなで集まって野球やろうぜみたいなノリになっても可笑しくはないし、寧ろかなり自然な流れだった。

だから発案者は誰だとか、そんなことはなかったはずだ。
ごくごく当たり前に野球の準備をしてわいわい言いながらチーム分けをして、いつの間にか延長にまで持ち込んでいた。そんな時の逆転ホームラン。
それが運悪く倉庫の方へ飛んでいってしまったのだ。そして、冒頭に戻る。


「おい、この間の掃除ってどこまで済んだ?」

「そういえばTボーン大佐に頼まれてた書類があったんだった」


悲惨な音がしたその方向は誰も見ることなく、各々さも今用事を思い出しましたと言わんばかりにささっと散っていく。その様は蜘蛛の子なんて比べ物にならないほどだった。


「……はいはい。またこのパターンね!ガープといいお前らといい、仲間を思いやる優しさなんて欠片もないんですね!わかります」


持っていたバットでガツガツと地面を殴り付けながら、大きな声で独り言を呟く。
いつもは聞かないで欲しい独り言を勝手に聞いているくせに、こんな時は全く誰も聞いていない。否、聞こえないふりをしているのだろうが。

結局毎回名無しが、貴重なボールを取りに行って捕まって、説教をされて、給与から破損した備品代を引かれることになる。


「ボール買った方が安いだろ、それ」


憂鬱な顔でバットを転がした名無しに、漸くフルボディがぼそりと一言返した。
そしてその言葉を待っていたように名無しは、顔をあげて大きく手を叩く。


「私も今思った。律儀に取りに行って差っ引かれるよりも、新品のボール買った方がよくね?」

「そうだな。名前さえ書いてなきゃそれが一番いいんじゃねェの」

「しまった!この間無くさないように名前書いたわ!」

「終わってるな、お前の頭」


馬鹿にしたように呟いたフルボディの隣では、ジャンゴがガキかよ、と小さく笑っていた。
逆転ホームランを打たれたものだから完全に僻みモードに入っている。


「……俺が行ってやろうか?」

「は?」


あり得ないフルボディの言葉に、名無しは耳を疑い、一瞬固まった。そして固まった名無しに、ジャンゴがお決まりの台詞を言う。


「お前が行くなら俺が行くぜ」

「いやいや!私が行くって!」


















どーぞどーぞ!


「このぺてん師共が!地獄に堕ちろ!」



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