眠りの英雄




「わしはてっきりお前が一番先に辞めると思ってたが、なかなか根性があるな」


大口を開けてぶわっはは、と独特の笑い方をするガープを見ながら名無しはプルプルと限界を訴えて震える腕を曲げる。
全体重の掛かった腕は、疲れたというよりももはや感覚がなくてどこまで曲がるのかすらもよくわからない。

全身の毛穴という毛穴から吹き出した汗は、照りつける太陽の下で腕立てを続ける名無しから確実に塩分と水分を奪っていく。


「センゴクがお前に厳しいのは辞めないと踏んでるからなのか、それとも期待からか」

「今!……496回目ッ!だから!」

「なんじゃ。もう引っ掛からんのか」


つまらん、と不満そうに唇を尖らせたガープは、さっきから散々どうでもいい話を振ってきて、腕立ての回数を忘れさせようとするのだ。顔に似合わずなかなか陰険ないびり方だったが、流石に5回目。もう騙されない。


「ルフィなら何回でも引っ掛かるぞ」

「500!終わったー!」


まるで引っ掛かることを喜んでいるかのように話すガープを後目に、名無しはその場にごろんと力尽きて転がった。

毎回400回台で回数がわからなくなってやり直しをしていたので、3日間でかなりの腕立てをこなしたと思う。その証拠に、腕がもう全く動かないし、瞬きすらしんどい。


「ルフィは父親に似んで、わしに似たからな」

「ガープが育てたんでしょ。育ての親に似るのは当たり前じゃん。海兵にはならなかったけど」


最後に付け足した言葉は、思った以上にガープに突き刺さったらしく、ため息を吐きながら項垂れた。
ルフィの話で毎回何で海兵にならんだとブツブツ言っていたので冗談混じりで言ってみたが、ガープの中では結構深刻だったらしい。

まあ、親族で敵対しないといけないことになるのだから仕方がないと言えば仕方がないが、ガープがそこやまで深刻に考えているとは思っていなかった。


「あの、ガープ。あんまり気にすん…」


少し悪いことをしたような気がして、珍しくフォローをいれようとガープの肩を叩いた瞬間、ガープから盛大のイビキが漏れた。













眠りの英雄


「またか!このパターン!!」




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