「わかるかなこの感じ!クザンを3人ミキサーにかけて、絞って煮詰めた感じ?」
「全然わかりません。というか、自分の持ち場に戻ってください」
困ったようにため息を吐いたたしぎは、目を擦りながら壁に向かって必死に話しかけていた。
先ほど刀を見るために眼鏡を外して頭に引っ掛けていたのだが、それを忘れているらしく、壁に向かって説教をしている。
「お前こそ、なに壁に向かって説教してやがる。いい加減学習しろ」
面白くてにやにやと見つめていた名無しとは逆に、やれやれと言わんばかりにスモーカーがたしぎの眼鏡を頭からずり下ろしてペシッとデコを叩く。
「あたっ!す、すみません、スモーカーさん」
わたわたと眼鏡の位置を直したたしぎは、恥ずかしそうに耳を赤く染めて俯きながらボソボソと謝った。
この二人、息をするようにイチャついている自覚があるのだろうか。持ち場に戻ってくださいとか真面目発言をしているわりには上官とキャッキャウフフするのはどういうことなのか。
「べ、別にイチャついてなんていません!そもそもスモーカーさんは憧れの人であって、そういった不純な気持ちなんてありません!」
「眼鏡ちゃんって、無意識にこうやって色々な人を斬りつけてるんだね。この小悪魔切り裂きジャックめ」
好意を寄せている隊員たちに初めて同情してしまった。鈍いというのもまた酷なものだ。
「おい、名無し。居場所がねェからってここに入り浸るんじゃねェよ 」
黙って仕事をしていたスモーカーが、大量の煙を口から吐き出しながらそう一言だけ溢した。
ブツブツと小言も付いてくるかと思ったが、本当にあっさり一言で終わってしまって、なんだか拍子抜けしてしまうぐらい。
しかも騒動の元を掴んでいるかのような物言いで、色々と言いたいことはあったがそれらを全て飲み込んだ。
言葉を飲み込んだ名無しを見たたしぎは、流石ですスモーカーさん、と敬意に満ちた視線をスモーカーに送っていた。
「自分でやったことぐらい自分で始末しろ。後悔するぐらいなら最初から慣れないことなんかすんじゃねェよ」
押し黙った名無しを見たスモーカーは、忌々しげに舌打ちをして、机に積んであった書類をガサガサと手荒にかき集めてバラバラのまま名無しに差し出す。
「なに」
「大将に持っていけ。こんな時こそあの人の出番だろうが」
ほら、と押し付けるように持たされた書類に、名無しとたしぎは不思議そうに顔を会わせて首をかしげた。
こんな時の大将
「こんな時でもクザンは仕事しないけどね」
「そうですね。こんな時でもしないですよね」
「……いいからさっさと持っていけ」
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