人の噂は光の早さ



噂はたちまち本部内に広がり、顔も知らないような人間にも名無しの名前が広まった。
その噂とは、赤犬一派に喧嘩を売ったと言うものらしい。
名無しとしては、たいした努力もせずに、赤犬の部下だと威張り散らす下っ端の話をしたのだが、噂が広まるにつれ、打倒赤犬一派みたいな流れになってしまっている。
まあまあ間違ってはいないし、訂正するのが面倒くさいので敢えて訂正なんかしないが、夕食時には既にアウェイ感が凄かった。

まさかここまでオーバーに広まるなんて夢にも思わなかったが、こんな噂にカッカできるのはある意味平和で望ましいことなのかもしれない。


「……おい、」

「あれ、顎さんじゃないですかー。どうしたんですかそんな低姿勢でー」


少し声を押さえて名無しの背後から声をかけてきたのは、いつもは上から目線のヘルメッポだった。
噂を聞いたらしく、今名無しに関わるのは立場的によろしくないと思ったのだろう。
そう思うならシカトすればいいのに、出来ないのがヘルメッポの頭が悪いところというか、要領が悪いところであり、いいところでもある。死んでも口には出さないが。


「お前、赤犬一派に喧嘩売ったってマジかよ」


背後からボソボソと聞こえるヘルメッポの声は、妙に気持ち悪くてウザったい。
耳を擽るような声が苦手だというのもあるが、ヘルメッポにそんなしゃべり方をしてほしくないというのもあるかもしれない。

ヘルメッポは調子に乗っていて、上から目線で偉そうなことを垂れ流して、コビーの隣をへらへら笑いながら歩いているのが一番似合うし、そうあってほしいと思う。


「なんだとテメェ!もう一回言ってみろや!赤犬の部下なんかに私が負けるわけねェだろうがボケ!」


後ろでボソボソ喋っていたヘルメッポの襟首を掴み、意味がわからないと言った顔をしたヘルメッポを問答無用で殴り飛ばした。
いきなり始まった喧嘩に、その場は一瞬だけ騒然としたが、居合わせた将校が名無しの腕を掴んで捻りあげることで、すぐに収束された。


「この腰抜け!二度と近寄んなバーカ!」


ヘルメッポに向かって叫んだ名無しの言葉は、また新しい噂になって本部内を巡ることになる。














人の噂は光の早さ


「馬鹿はテメェだろ、クソ女」




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