マイナス値


これまで生きてきた中で、誰かが好きだとかなんて考えたことなんて無かった。

これには勿論両親も含まれる。
両親のことは心から尊敬していたが、好きだとか愛してるなんて考えたことはない。母親は刀オタクで、記憶にあるのは鉱物の見分けかたや知識をひたすら語る姿か、槌を振り上げて火花を飛ばす後ろ姿しか覚えていないし、父親は父親で寡黙な方だったのか、いつも母親の言うことに静かに頷いていたイメージしかない。

つまり、両親との関係は師弟関係に近いものだった。いかにして技術を盗むかばかり考えていたあの頃は、ある意味とても純粋だったような気がする。


そんな変態みたいな幼少期を過ごしたせいか、気がついたら恋愛沙汰からはかけ離れた性別不詳みたいな生物に育ったのだ。嫌いなやつの名前ならノンストップで最後まで言える自信がある。



「考えないようにしてただけじゃないの?少なくても名無しちゃんを放っとけない人間はそこそこの数いると思うけど」

「放っとけないって言うより、放っといたから被害を被るから火消し的なポジションだろ、それって」

「なるほど」

「……」


珈琲を飲みながら悶々と考えていた名無しに、横からちゃちゃを入れるようにクザンが口を挟む。
あまりにも自然に口を挟んで来たので、突っ込む前に答えてしまって唖然とした。


「いや、あまりにも堂々とした独り言だったからてっきり話しかけて来てるのかと思って。ごめんね」


口を挟んだクザンを責めるように睨み付けた名無しに、クザンは申し訳なさそうなふりをした顔でどうでも良さそうに謝った。こんなに誠意の籠っていない謝り方ができるのもある意味才能だと思う。

こんな態度をとるやつだけは好きにはならない。


「クロコダイルは金持ちだけど噛み癖があるし、エースきゅんはフェアリーだし、キッドはDV体質っぽいし、赤髪ウザいし、大本命のエドちんに手だしたら1600人の息子からフルボッコ確定だしな」


考えてみたら普通の知り合いすらいないことに気がついて人生に絶望しかけてしまった。
普通ならこれだけ長く生きてくれば異性とのお付き合いなんて多少はあるものだが、名無しにはそれがない。全裸で立ってても誰にも相手にされないレベルで女子力がマイナスの方に振りきっているのだ。













マイナス値



「考えれば考えるだけ涙が」

「ドンマイ」



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