広い食堂にぽつりと二つの影。
時間が時間だけに席は有り余っているが、何故か同じテーブルの端と端に座っている。
同じように天ぷらうどんを啜り、暫くの沈黙の後、ダルメシアンが口を開いた。
「大将、名無しを何とかしてください」
「名無しちゃんがどうかした?」
「荒れてて手のつけようがありませんよ。なにをしたらあんな風になるんです?」
「あららら、俺が何かをしたってのが前提なの?」
「それ以外になにが?」
決めつけるような口調でそう告げたダルメシアンは、目の前の空になった皿に手を合わせる。そして水を口に含み、静かに飲み干してからため息を一つ吐いた。
わざとらしいそのため息も、距離感も、クザンにとっては決して居心地のいいものではない。
「大の大人が子供をからかって遊ばないで下さい。仕事に支障が出て困ります」
淡々とそう告げたダルメシアンは、空になったコップをトレーに載せて立ち上がった。視線はクザンの方を向くことはなく、どこか違う方向を見ている。
そんな状況で小さな声でもよく聞こえるのは、やはり食堂に誰もいないせいだろう。セッティングされたかのような好条件の愚痴り場だ。
「あー…つまり、遊びじゃなきゃいいってこと?」
うどんを端で掴んだままダルメシアンの方に視線を向けたクザンだったが、目は合うことはない。
「別に個人的なことはどうでもいいんですが、仕事に支障が出ないようにお願いします。大人なんですから」
呆れたようにそれだけ言い残したダルメシアンは、トレーを持ってさっさと居なくなってしまった。本当に言いたいことだけを言ってなにも返事を聞く気はなかったらしい。
手のかかる部下が更に手に負えなくなってしまったのだから当然といえば当然だが、一人残されて伸びたうどんを食べるのは妙に虚しく感じたクザンだった。
ひとりぼっちの昼食
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