「誰がテメェなんか好きになるんだよ!ふざけてんじゃねぇぞ!」
掃除の最中に、地下に続いているであろう通路に向かって叫ぶと、中で何度も木霊して響いて消えていった。本来なら本人に面と向かって言いたいのだが、唖然としてしまって色々と言葉が出てこずに悔しい思いをした。
ムカつきすぎて12時間も寝てしまった。おかげで遅刻して怒られるわ、八つ当たりしたゴミ箱がセンゴクに当たって掃除させられるわで、踏んだり蹴ったりもいいところだ。これも全て忌々しいクザンのせいに違いない。
「どう思う?ヘルメッポくん」
「あぁ、こいつうぜーなと思ってる」
「流石だねヘルメッポくん。死んだらいいのに」
モップを持ったまま振り返った名無しを軽く一瞥したヘルメッポは、眉間にシワを寄せたままごしごしと床を擦る。
地下の掃除を押し付けられたあと、たまたま休憩中のヘルメッポを見つけて、後ろからヘッドロックを極めて強制連行したのだが、思いの外ヘルメッポの機嫌は悪いままだ。
それでも一応手を動かしているのは、センゴクに言われた仕事だと言ったからだろう。
別に掃除はしなくてもヘルメッポは怒られることはないのだろうが、それでもやはり元帥の名前は大きいらしい。出世に興味すらなく、いつクビになってもたいして後悔しない名無しとは心のあり方が違う。
「そんなことよりコビーは?」
「お前がそんなことよりとか言うんじゃねェよ。コビーなら自室で勉強だとよ」
モップの柄に腕を置いて一息吐いたヘルメッポは、ついていけないとばかりに肩を大きく落とした。
出世頭と言われているのにも飽きたらず、まだまだ上を狙う気でいるコビーには、名無しもからかうことができない。実際に会ったら勿論からかうが。
「あいつスゲーよ。ガープ中将から色々教わってどんどん強くなってるしよ。この間もガープ中将の計らいで麦わらに会ったんだよ、そしたら……」
火がついたように喋り出したヘルメッポの話に、ふんふんと適当に頷いていた名無しの意識は既に昼食のメニューへと切り替わっていた。
別にコビーとヘルメッポのダイアリーが聞きたいわけではなく、まだきちんと前を向いているのかどうかを知りたかっただけで、その過程はわりとどうでもいい。
「それで麦わらが」
「ねぇ、喋ってないで掃除しようよ」
「……」
お前が言っちゃダメなやつ
「お前とは本当に気が合わない」
「激しく同意せざるを得ないな」
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