外道の上を行く雉



「名無しちゃん名無しちゃん」


ちょいちょいと手招きをしたクザンを見て名無しは眉間にシワを寄せた。
あんなに機嫌よさそうに人を呼ぶだなんて、きっと人を利用しようとしているに違いない。

クザンと知り合ってまだ少ししか経っていないが、なんとなくわかる。


クザンはサカズキやボルサリーノほど感情を露にはしないが、人を上手に操る印象が強い。つまり勝負玉に直球しかもっていない名無しからしてみれば、変化球ばかり投げてくる嫌なヤツにしか見えない。
天敵とも言えるそんな性格のヤツは大体第一印象でわかる。

多分だがクザンみたいなタイプのやつも名無しみたいなやつが直球しか投げられないことを熟知しているのだと思う。


「いやだ」


名無しは真顔で少し考えてから、その場で首を大きく左右に振った。


「あらら、まだ何も言っちゃいねぇよ」

「だってもうよくない臭がぷんぷんする!今から言おうとしてることは間違いなくモジャ男に利益があり、私にはなんの利益もないと今ここで断言しよう!!」


距離を詰めてくるクザンを見ながら後ずさった名無し、力説するように力強く拳を奮った。
そもそもこの間もあの頼りない口調で翻弄されて書類整理を手伝ったが、約束していた刀の情報はその刀はこの世に存在するとかいうクソみたいな情報しか貰えなかった。存在してない刀なんて探してないし、存在するからこそ探しているのに、あまりにクソすぎる情報に二の句が紡げなかった。


「じゃあケーキあげるから」

「ケーキの形した消しゴムとかメモ帳なんでしょ」

「あらら、名無しちゃん結構疑り深いね」


呆れたように肩を竦めたクザンは、片手に持っていた書類をぐいぐい押し付けてくる。
別に手伝うなんて一言も言ってないのに完全に手伝わせる気満々だ。


「言っとくけど私はアンタの部下じゃないから!私はガープの部下だから!!ガープの!部下だから!」


押し付けられた書類をクザンの方へと押し戻しながら名無しは語尾を強調する。
クザンの部下なら致し方ない部分があるかもしれないが、全然関係ないやつの頼みなんて聞く道理がない。


「私の仕事はガープの命令聞くことだから!てめぇの命令聞いたって給料とはなんの関わ」

「あ、ガープ中将。名無しちゃんちょっと借りていい?」


たまたまタイミング悪く通り掛かったガープにクザンが声をかける。名無しもガープの名前に振り返って、押し返していた手を一時止めた。


「ああ、わしは構わんぞ」

「んな!?人を文房具みたいに貸し合わないでよ!!」

「これで名無しちゃんへの命令権は俺に移ったわけだけど。書類手伝ってくれる?」


してやったり顔で名無しを見るクザンは、身長差もあってか物凄く見下してる感がある。


「そうだね。ガープがそう言うなら仕方ない…」


クザンに見下されたまま目を伏せた名無しは、太い息を吐きだしてから顔を上げた。


「だが断る!!」

「なるほど」

「まさに外道!!」

「はいはい凄い凄い。じゃあこれ終らせて提出してね」


ぶふっ!と自分の発言に吹き出していた名無しにクザンは書類を無理矢理押し付けて、ぽんぽんと肩を叩いて去っていった。


















外道の上を行く雉


「…まさかのオールスルー…」


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