多分、今この時のこのクザンの顔は一生忘れることはないだろう。
一言では表し辛いが、言うならば未曾有の絶望感だ。
「わがまま過ぎて手遅れだった」
一言そう告げると、クザンはゆっくりと目を閉じて、後頭部をぼりぼりとかきむしってから口を開いた。
「そうみたいね」
期待してた訳じゃないと言葉から滲み出ているが、顔がいかにも残念そうにしているので、僅だが罪悪感を感じてしまう。
なんせあんなに啖呵きっといてこのザマだ。洗濯板にも程がある。
「そんな落ち込むなよ!上から目線なら女帝にも負ける気しないし、絶えず後ろから罵ってあげるから!」
「名無しちゃんの中では俺の属性はエムなんだね」
「えっ!?違うの!?」
不思議そうに言うクザンに思わず声が裏返って、更に上擦る。本人も認めているものだとばかり思っていたので、本気で驚いてしまった。
「別に俺は罵られるのも見下されるのも好きじゃあないけどね」
「ただ反応するのが面倒なのか」
「よくわかったね」
「わからないやつは存在しないだろ」
見るからに怠そうな感じで、なんでわかったの?凄いみたいな反応をされたところでちっとも嬉しくなんかないし、馬鹿にされている感じが否めない。
年寄り、主にレイリーなんかがこの顔をするときは基本的に相手をすることすら止めたときの究極モードだ。
「とりあえず散歩行くの?行かないの?」
「行くけどさ。そんなそこまで落ち込まなくても良くない?たかが乳で」
至極がっかりした様子で自転車のベルをチリチリと短く鳴らすクザンの後ろに乗る。
よいしょ、と言う重々しい掛け声と共に少しずつ自転車が動き始めて、キコキコと軽く左右に揺れた。
「あー…別に落ち込んでないよ。名無しちゃんも可愛いことするんだなと思っただけで」
「は!?」
予想だにしていなかった言葉に思わずクザンを二度見して、大きく目を見開く。
「乳で喜ぶと思って試行錯誤するなんて可愛いことするじゃない」
「なにこいつくたばればいいのに!地獄に落ちろ!スライム状に広がったサカズキの上に落ちて蒸発しちゃえばいいのに!」
「あららら」
只今聴覚異常中
「なんだかんだで女の子だよね」
「あーーーーーっ!!」
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