ある程度予想はしていたことだったが、ヒナは思った以上に冷たい視線を向けていた。
ある程度の冷たい視線を覚悟して挑んでいたが、心の盾はヒナの前で木っ端微塵に崩れ落ちてしまったと言っても過言ではない。
「確かに胸は背中から引っ張ってきて、更に寄せて上げれば1カップは上がるけど、それは肉があることが前提なのよ」
ふっ、と短く紫煙を吐き出したヒナは、持っていた携帯用灰皿で煙草をグシャグシャと揉み消した。
それから名無しの身体を上から下まで流し見て、カツンッとヒールを鳴らす。
「ヒナ、無理」
「一刀両断!」
「余分な肉が無さすぎるのよ。これじゃあ寄せることなんて出来ないわ」
確かにヒナの言う通り、若干鍛えすぎて脂肪があまり存在していない。
この間コビーと背筋を競ったら名無しの方がほんの少しだが強かった。常日頃の訓練の成果と言えば聞こえはいいが、女子力は寧ろマイナスだ。
「いいじゃない。いい感じに鍛えられてるわよ」
励ますように肩を軽く叩いたヒナは、確かめるように肩から二の腕を軽く握ってニッコリと笑った。
「よく頑張ってるわね。ヒナ、感激」
鍛えられた二の腕を撫でて、厚めの唇をつり上げて偉いわと呟いたヒナを見た瞬間。フルボディが鼻の下を伸ばしているところが頭に浮かんだ。
こんなにエロ可愛い上官ならそれはもう死地にでもピクニック気分で行けそうな気がする。
「こうなったら水風船でも入れてガムテープでとめるしかないか……」
青チャリにまたがって待っていろなんて大口を叩いたこともあり、まさか今さらこんな貧相なまな板で行くわけにはいかない。
胸を覗き込んで残念そうに溜め息を吐いた名無しに、ヒナはキッと眉をつり上げて目力を強める。
「胸で女を選ぶ男なんてやめときなさい。ろくな男じゃないわ!ヒナ、断言」
「確かにそれもそうだ」
「小さくても胸を張って、媚びちゃダメ!そうすれば自ずとチャンスはくるわ!」
力説するように名無しの肩を強く揺さぶったヒナに、まさかクザンの名前を出すわけにはいかない。
色々と出かかった言葉を断腸の思いで飲み込むしかなかった。
本部を守った気がする日
「ヒナ大佐はデカイよね」
「肩が凝るだけよ」
「言ってみたい……」
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