「なんか仕事ない?」
「あらら、名無しちゃん。仕事なら目の前に溢れかえるほどあるじゃない」
上着の裾から手を突っ込み、脇腹をぼりぼりとかいていた名無しは、クザンの言う溢れかえるほどの仕事を一瞥してから不愉快そうに目を細めた。
「それはテメェの仕事だろうが。いい加減にしろよ!その髪燃やすぞ!」
舌打ちをしてから一喝すると、クザンはやれやれと言わんばかりに肩を竦めて背もたれにもたれ掛かった。
体重のかかった背もたれは大きく軋んで、悲鳴を上げる。
そのまま後ろにひっくり返ってしまえと名無しが思ったのは言うまでもないことだ。
「名無しちゃんほど思ったことが口に出る子も珍しいよね」
「まぁ、自慢じゃないけどよく言われる。とりあえずなんか討伐系の仕事くれ」
「そんなゲームみたいなノリで言われても困るんだよね」
「じゃあちょっと散歩行こうぜ!どうせ暇だろ?」
机に乗っていた書類を腕で押し退けて床に落とした名無しは、今までで一番いい笑顔を見せた。やってやったと言わんばかりのその笑顔に、クザンは落ちかけていたアイマスクを親指で押し上げながら短く息を吐く。
行くなと言えばこっそり行こうとするくせに、いざ行こうとケツを叩くと面倒そうな顔をするのは如何なものなのかと名無しは思う。
「わかったわかった!クザンは青チャリを漕ぎながら海を凍らせてくれるだけでいいから!」
「いつもと変わらないよね」
「気のせいじゃね?」
「なるほど、気のせい……ね」
「要するに気持ちの持ちようだと思うの。後ろに海賊女帝が乗ってると思って必死に漕いで」
「女帝ねェ……」
一応想像しようとしたらしいが、妄想の途中で名無しが視界に入ってしまったらしく、クザンからは残念そうなため息が数回聞こえた。
「よし、わかった!そこまでいうならこの貧相な乳をなんとかしようじゃないか!」
「あららら。俺はなにも言ってないんだけど」
「麗しのヒナ嬢に底上げを頼んでくるから青チャリに跨がってまってろってんだ!」
自信ありげにフフンっと鼻を鳴らした名無しは、鼻先を親指の腹でちょいちょいっと撫でて見せた。
メロンはジャスティス!
「今こそこのわがままボディを躾る時!」
「あららら」
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