そのくだらない噂はのんびりとした昼下がりにはぴったりな本当にくだらない噂だった。
"コビー曹長は、一部の海賊に肩入れしている"
奥様方の井戸端会議のネタにするにもくだらなすぎる噂に名無しは欠伸で返した。
本当に馬鹿馬鹿しいが、これは事実である。
麦わらのルフィに特別恩義のようなものを感じているのは、コビー自体も認めていることであり、今更過ぎる話だ。
そんな今更の話が何故噂になったのかと言えば、それはコビーが異例のスピード昇級を果たしたからだ。
コビーよりも先に入って今まで散々先輩風を吹かせていた奴等が、突然上官になったコビーが疎ましいのだと思う。
「つまり嫉妬!」
「オォ〜、それを言っちゃうと元も子もないよねェ」
お気に入りの紅茶の香りを楽しみながら目を閉じていたボルサリーノはどうでもよさそうに片目だけ開けて名無しの方を一瞥する。
コビーの噂を教えてくれたボルサリーノがこの反応なのは微妙だが、ある程度の数の人間が集まれば足の引っ張り合いは多少仕方がないことだ。
こんな話はどこそこである話で、ボルサリーノからしたら物珍しさもないのだと思う。
コビーのことを教えてくれたのはただ同期だからある一種の話題としてのつもりだったのだろう。
「不満があるなら正々堂々と夜襲を仕掛けるべきだと思うの」
「そもそもォ〜夜襲は正々堂々の戦闘方法じゃあないよねェ」
「陰口よりは百倍マシ!」
間延びした声に張り合うように大きな声で反論した名無しは、ボルサリーノ曰く安物の珈琲を飲み干した。
安物だと言ってはいるのだが、クザンが買ってきた珈琲よりはかなり美味しい。
クザンの買ってきた珈琲をいれたときは思わず麦茶?と言いたくなった。クザンも一口飲んで麦茶みたいだと言っていたので、あれは多分麦茶なのだろう。かなり不味かった。
「そんなクソみたいな噂はフライアウェイしといて、この買い置きの珈琲譲って!」
「買い取りかい?」
「クザン払い、一括で」
「オォ〜…いいのかい?そんなこと勝手にしてもォ」
「大丈夫。それだけは働いてるから給料と出世に反映されてないだけで!」
自信満々にそう言った名無しにボルサリーノは短く溜め息を吐いた。
お支払はクザンで
「名無しの場合は損害を出し過ぎてるんだよねェ」
「そんな小さなこと気にしちゃいかん」
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