「おめー」
朝の雑用を全て済ませ、綺麗に手を洗った名無しはごしごしと服で手を拭きながら大将の部屋に入る。
「あー…、おはよう」
「朝から眠そうとかどういうことよ」
とりあえず全力で掃除を終わらせてきた名無しは、今来たばかりなのにまた眠ろうとしてアイマスクをしているクザンを見て微妙そうに顔を歪めた。
「あららら。俺ぐらいの歳になると寝るのも疲れちゃうんだよ」
「なにかっこつけてんだ。それ言うなら他の大将もってことじゃん」
大将の部屋に備え付けてある掃除用具棚からモップとホウキを取り出した名無しは慣れた手つきでバケツに水を入れて掃除を始める。
別に掃除をしろと言われたわけではないが、朝一は溜まった書類がなければすることはないし、朝の会議が終わるまでは名無しの仕事は殆んどない。
暇なことが嫌いなので、とりあえず掃除をしていたところ、これが日課になってしまった。
「ところでさっきなんか言わなかった?」
「都合の悪いことはスルーするんですね、わかります」
「さっき、入ってきたときに」
手早く端っこからホウキで掃いていた名無しは、思い出すように足を止めて口をぽかりと開けた。
「なんか言ったっけ」
「お面って」
アイマスクを持ち上げて不思議そうな顔をするクザンに、名無しはああ、とどうでも良さそうに呟いた。
「今日で還暦だって聞いたから」
「誰が?」
「クザンが。だからおめでとうを略しておめーって言っただけ」
「還暦は突っ込まないけどせめて略さないでよ」
「いやいや、還暦に突っ込めよ!」
ちょいちょいとホウキで端の方の埃を集めた名無しは、少し大袈裟に溜め息を吐いてからクザンの方を見た。
「おめでとう」
「あ、やっぱりお誕生日もお願い」
「誕生日」
「繋げて」
「誕生日おめでとう、還暦だけど」
「あー…ありがと。久しぶりに祝ってもらったよ」
「だから還暦に……もういいわ」
色々と言いたいこともあったが、クザンに突っ込むことすら無意味なことに思えたので途中で諦めた。
大体こんなもん
「そういえば朝一でセンゴクさんに祝って貰ったんだった」
「なんだこいつ……」
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