ガシガシと力を込めながらブラシで甲板を擦った名無しは、短い息を吐き出してから額の汗を腕で拭った。
水が薄く張られた甲板は、鏡のように太陽を反射し、足元からムワッとした暑さがわき上がってくる。
こんな暑い日は、当たり前だが甲板掃除をみんな避ける。雑用の中でも掃除を分担する際にとんでもない死闘を繰り広げることになるのだ。
今回は敗者が勝ち上がるトーナメント式じゃんけんだったが、序盤から殴り合いになり、最終的には殴り合いのデスマッチになった。
結果、名無しが負け、甲板掃除を一人ですることになってしまったということだ。
いつもなら3人でするはずなのに、デスマッチになってしまったため1人でこなすことになってしまった。
「誰だ、デスマッチにしようとか言った馬鹿は!」
暑い日差しに顔を顰めた名無しは、吹き出てくる汗を二の腕で拭いながら再びブラシで甲板を擦り始める。
「間違いなくお前だろ」
「まあな!でも刀さえ使えればあんな頭がピンクの脳内お花畑野郎には負けなかった!」
「あぁ?ふざけんな。誰がお前なんかに負けるか」
わき上がってくるイライラを込めて甲板を擦っていた名無しだったが、安っぽい挑発にブラシを手放した。
「なんだとコラ!脳内お花畑野郎が麗しのヒナ嬢の部下だからって調子のってんじゃねぇぞ畜生が」
「お前こそ大将付きだからって先輩に舐めた口聞いていいと思ってんのか?ああ?」
眉間にシワを寄せて見下してくるヒナ嬢とお揃いのピンク髪をしたその男は、いつもハートのサングラスの男といる。名無しの記憶力では名前までは覚えていないが、他を圧倒するその個性的な外面で覚えている。
以前にもモメた気がするが、それはあまり覚えていない。
「先輩だって?ははっ!冗談は顔だけにしろよ?ははっ!」
見下してくる視線に負けじと睨み返した名無しは、肩で挑発するように体当りした。
「俺の方が階級は上だってことがまだわかんねェみたいだな」
ボキボキと指の骨を大袈裟に鳴らしながら名無しに体当りし返した。
二人だけのゴング
「暑さで苛々してるから手加減しないからな!」「そりゃこっちのセリフだ」
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