背後から死神



同期入隊がいない名無しは一つ先輩にあたる隊と一緒に訓練をすることになっている。
立場的には下っ端になるのだが、特になにもせずにいきなり入隊した海兵よりは体力があるとは思う。


「でも、むちゃくちゃだっ!!」


「叫ぶと余計な体力を使うぞ名無し」


豪快な笑い声を響かせながら大きな煎餅を頬張るガープは、木陰で涼しそうにしている。
そしてその前には、既に脱落していった海兵達が屍のように転がっていた。


今日の訓練は死ぬまでマラソン。
なんでも名無しが入る前に体力テストらしきものあり、そのテストでガープ率いる隊の運動能力値が最低だったらしい。
そのせいで基礎体力値をあげるためにマラソンになったらしいのだが、途中から入隊した名無しからしてみればとんでもなく迷惑な話だ。

力尽きて倒れることができたらいいのだが、有り余る体力がそう簡単に倒れさせてはくれない。
かれこれ2、3時間は走っていて足はガクガクするし、腕にも力が入らずにぶらぶらと無様に揺れているだけだ。
走っているのか歩いているのかわからないスピードのまま未だに走り続けているのは、名無しを除いて他2人だけ。
1人はコビーでもう1人は同期の中では一番優秀だと言われている男だった。

もう3人とも干からびて気力だけで足を進めているのが現状だ。


「マジもうやってらんねぇー…足動かない」

「無駄口叩いてる元気があるならもっと走れ」


足を引きずるように走っていた名無しを遠くで叱咤するガープだが、お茶なんか飲んでる姿を見せつけられたら殺意しかわかない。


「もーやだー…」


ゼイゼイと喉を鳴らしながら空を仰ぐ名無しは、未だに同じように走り続ける2人を見る。
あの2人が早く脱落してくれないとこのまま永遠と走り続けることになるわけだ。
もちろん名無しが先に倒れてもいいのだが、そうなるとなんだか負けた気がするからそれだけは絶対に避けたい。
つまりあの2人がさっさと倒れてくれることを願うしかないわけだ。


「くそ…こうなったら、もう潰すしかない…」


少し離れたところを走っているコビーを見据えて、唾を飲み込んだ名無しは、気力を振り絞って足を動かし距離を詰めていく。
ひたすら走り続けるだけのマラソンにノルマは無いので、何周早いのか何周遅れているのかもよくわからない。


後ろから近づいてもコビーは気がつく素振りもなく、前を向いて必死に走っている。
歩いているに違いスピードだが、本人は全力で走っているんだろう。


「南無っ!!」

「あがっ!」


後ろから追い越し際に脇腹に肘鉄をくらわせる。
気力だけで走っていたコビーは、崩れるように倒れ込み動かなくなった。


「ぶわっはは!名無しのやつやりおったわ!!」


ガープが木陰で大笑いすると、前を走っていた男が名無しのほうに振り返って顔を強張らせた。


「お前もくたばれぇぇぇ!!」

「ひっ!!来るな!!」


火事場の馬鹿力でいきなり走り出した男に名無しは舌打ちをして、気力を振り絞り腕を大きく振った。




















背後から死神


「まさかここまで壮絶になるとは思わなんだ」

「もう、無理ィ!!おぇぇぇぇ…っ!!」


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