カチン、と少し高めの心地いい音が響き、名無しは鞘に収まった刀に納得したように軽く頷く。
「完成した?」
「教えてやんねーもんね!」
やっと終わったの?と言わんばかりの言い方をしたクザンに、名無しは鼻から荒々しく息を吐いた。
別に待っててくれと言った覚えもない、いや寧ろなんでいるのかすらよくわからないぐらいなのに、なぜそんな態度を取れるのか、イラつくと言うよりも純粋に疑問でしかない。
「……出来たみたいで結構結構。じゃあ本部に帰ろうか」
ちらりと名無しが握っていた刀を一瞥したクザンは、有無を言わせないような態度で背中を押した。
珍しく行動的なクザンに驚きもあって、ついつい従ってしまった名無しは、工房を出た瞬間我に返り勢いよく振り返って口を開けた。
今にも溢れんばかりの悪態を吐き出そうとした名無しだったが、目の前にあった筈の工房が一瞬で崩れ落ちた。
「……」
確かに今にも崩れ落ちそうなほど古い建物だったし、崩れてしまってもおかしくはなかったが、どう見ても意図的である以上突っ込んでいいのかよくわからない。
もし突っ込んで、理由がシリアス臭いことだったら死ぬまで後悔するだろうし、突っ込まなかったら突っ込まなかったで後悔する気がする。
「なんつーかなぁ……あー……まぁ、なんだ」
大量の土埃と木屑が舞う中で、クザンは名無しの心を読んだかのように空を仰ぎながら言葉を濁す。
言いづらいことなのかと思ったが、クザンがそんなタイプではないことを思い出した。このパターンはいつもの投げやりコースだろう。
「気に食わなかったからだ」
「言わないのかよ!!」
「えっ」
「えっ」
待ってましたと言わんばかりに食い込み気味に突っ込んだ名無しに、クザンはいつもより少しだが目を開けた。
絶対にまあいいじゃないの系の返事が来ると読んでいたので、まさか正当な答えが返ってくるとは思ってもみなかった。
「今のところカットで!!他言無用でお願いしますぅぅ!!」
「あららら。別に言い触らしたりしないよ、こんなこと」
半泣き状態で足元にすがり付いた名無しを見て、クザンは呆れたように頭を掻いた。
先走ったツッコミ
「早漏怖いっ!」
「下ネタは止めなさい」
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