ジュウ、と大きな音と派手に湯気を出しながら微妙に反り返った刀を見て、名無しは流れ出る汗を拭った。
反り返り具合は理想的で、強度もいい。暫くの間刀を触っていなかった割には全く勘が鈍っておらず、寧ろ冴えている気もするから怖い。
「自分の才能が怖いっ!」
「自画自賛しちゃうんだ」
「煩い!誰も褒めてくれないんだから自分で褒めるしかないじゃない!」
刀に反射した光を惚れ惚れとした表情で見ていた名無しに水を差すようにクザンが口を挟む。それに間髪入れずに名無しが吠えて返す。
当たり前のように居座っているクザンを最初は本部に帰そうとしたのだが、のらりくらりと話を反らされて話が全く進まないので諦めた。精神的な長期戦に名無しの脳みそはついていかない。
「それ、誰かに譲るの?」
「違う」
「じゃあ自分の?」
「なんでそんなこと聞くわけ?変態かよ」
「ただの興味だよ」
誰かに譲るわけじゃないと言えば答えなど一つしかないのに、敢えて聞いてくるクザンは性格が悪い。ネジ曲がって一周回ってるぐらい悪い。
そんなクザンを無視して、鈍く光る刀を研石に当てて特殊な灰を水に混ぜたものを適量刀に滑らせながら一回一回丁寧に研いでいく。
みるみる内に違う輝きを放ち出した刀を見ているだけで、無意識に顔がにやけてしまうので困る。
クザンから受ける精神的ストレスも全て忘れてしまえるほど癒される。
これで鞘まで完成した際には、多分涙がでるだろう。
「なんでそんなに好きなのに捨てちゃうの」
「乙女心は複雑なんだよ」
「それで片付けちゃうんだ」
「そう。これこそ女であることの強味!!」
はははっと低く笑うと、クザンは後ろで黙り込んでしまった。
少し傲慢過ぎたかと心配して後ろをチラッと確認すると、座っていたはずのクザンは寝転がって寝ていた。
わかってはいた。何となくはわかっていたが、やっぱりこれ以上ないほどムカつく。
実力に月とすっぽんぐらい差がなければ、せめてライオンとネコぐらいだったら、今持っている刀で試し斬りしていたに違いない。
わき上がる殺意
「いつかやり返すいつかやり返すいつかやり返すいつかやり返す!!」
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