剣士に言わせれば命に匹敵する刀を手掛ける刀匠、ブラックスミスは今はあまり見かけない。
量産の為に型で造られた刀が市場を占め、安く丈夫な刀も増えた為だ。
手間がかかり、時間がかかり、そして値を叩かれ、刀匠達は次々と刀を造ることを止め、近代的な職へと移っていった。
そんな中で刀匠のトップに君臨したのが名無しの母親。
優れた技術と、商人すらも舌を巻くほどの強かさを持ち合わせていた名無しの母親は、美術品としての刀の価値を上げていった。
名無しの存在は殆どの人間は殆ど居なかったと思う。かく言う自分も、名無しという子供がいることを知ったのはつい最近のことだ。
母親が意図的に隠していたのか、それとも工房に籠って刀ばかり造っていたからなのかははっきりとはわからないが、ドフラミンゴも名無しのことを知ったのはまだ最近の筈だ。
「たしぎちゃんがお礼言ってたよ」
「また来たのかよ。仕事しろよ仕事」
「名無しちゃんこそ仕事終わったのに全然帰ってこないじゃねェの」
頭にタオルを巻いて仁王立ちしているせいか、名無しの目はいつになく鋭く悪く見える。
「……あともう一本造ったら帰る。迷子なんだからいいでしょ」
どうせ給料出ないし、と怨みっぽく唇を尖らせて言った名無しは、Tシャツを引っ張って中に空気を入れ込んだ。
給料がでないことを相当怨んでいるらしいが、刀を正規の値段で売ればお金に困ることはまずないはずだ。
それなのに名無しはただ同然で刀を捌いてしまう。そして、自分の造った刀を集めては海に沈めているのだから全くといって利益は出ていないはずだ。
理由はよくわからないが、溺愛しているわりにはあっさりと沈めているので、そこにはそれなりの理由があるのだろう。
面倒なので聞く気にはなれないが。
「それが迷子だって信じてる人がいないっていうか」
「なに言ってんの」
「名無しちゃんの見た目から出てる生命力の強さが問題だと思うんだよね」
「さりげなく私のせいにしてるだろ」
「それに仕事が溜まってるし、主に書類」
「なに押し付けようとしてんの」
わざとらしくため息を吐いて見せると、名無しは眉間にシワを寄せた。こんな顔をするが、実際のところ必ず手伝いをするのが名無しの良いところだと思う。
いやの反対
「いつもありがとう、名無しちゃん」
「まだ何も承諾してないから!」
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