あ、言っちゃった



名無しに渡された刀を持ったままぶらぶらと歩いていると、頭に眼鏡を引っかけたまま壁に話しかけているたしぎを見つけた。


「あららら。たしぎちゃん、なに壁に話しかけてるの?」

「え!?あっ!スモーカーさん!?」


スモーカーに話しかけているつもりだったらしいが、肝心のスモーカーの姿はどこにもない。
たしぎの天然っぷりは毎日の事なので毎回毎回は構っていられないのだろう。置いていかれてしまったらしい。


「眼鏡ならここだよ」


とんとんと眼鏡を指で突っつくと、たしぎはハッとしたように眼鏡をかけてから顔を上げた。


「し、失礼しました!青雉大将!」


わたわたと慌てて敬礼の形を取ったたしぎは、少し恥ずかしそうに目を伏せる。壁に話しかけていたことが余程恥ずかしかったらしい。


「はいこれ、直ったから」


柄が新しくなっていたことがあり、たしぎは差し出された刀を不思議そうな顔で視線を上げた。


「元たしぎちゃんの刀でしょ」

「あ……」


押し付けるように刀をたしぎに渡すと、確かめるようにゆっくりと刀を鞘から抜いた。
白骸と呼ばれるにふさわしい真っ白な刀身に、たしぎはキラキラと目を輝かせて少女のような笑みを浮かべる。

刀に興味がない人間からしてみれば刀ひとつに何故そんな顔が出来るのかはよくわからない。

これが理解できるのは名無しぐらいなものだろう。



「これ、繋いだんですか?繋いだのに元の鞘に戻るなんて……凄いの一言ですね」

「そうなの?俺にはよくわからないけど」

「繋いだのに形が一切変わってないなんて、そんなこと普通はあり得ないです」



感心したように頷きながら刀を見るたしぎは、一度刀を鞘に戻してから感嘆のため息を吐いた。そして、当たり前のように言った。


「名無しさん、本当に凄いですね」

「あららら。名無しちゃんは」

「迷子なんですよね」

「MIAだよ」

「そうでした。MIAでしたね」


しまったと言わんばかりに緩んだ表情を引き締めたたしぎは、気まずさからか目を泳がせながら眼鏡を押し上げた。

慌てて誤魔化そうとしていたが、実際海軍で名無しのMIAを信じている人間は殆どいないことは知っている。














あ、言っちゃった



「一応表向きはMIAだからね」

「す、すみません」



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