雑用係に任命された名無しの朝はやたら早い。
何故なら仕事が多いからだ。
掃除だけでも2時間はかかる。
それに加え、基礎訓練だの指導だのと色々やることが多く、自由になる時間がすくなくなってしまった。
それなので仕方なしに早く起きることにしたのだ。
一応入隊にあたって寮を宛がわれたが、部屋が遠すぎて帰る気になれずに非常階段で寝ていることが多い。非常階段で寝ていた筈なのにいつの間にか資料室で寝ていたということもある。
「さぁ始めようか!眼鏡とケツ顎!」
「…なんで僕たちまで…」
「だりぃ…」
外はまだ暗く、海も黒々としている。
日の入りまではまだ少し時間があるせいか、本部内も不気味なほど静まり返っている。
大きく欠伸をしたヘルメッポを睨み付けた名無しは、わざとらしくため息を吐いて床をがんがんと踏み鳴らした。
「眼鏡とケツ顎は私と同じグループじゃん!お前等が終わらないと私が早く終わらせても意味ねぇんだよ!!」
自分だけ早く終わらせていればいいだろうと思っていたが、実際そんなに甘くなかった。
早く終わったなら他の仲間を助けるのが当然だとガープに怒られた。
なので同じ雑用係であるコビーとヘルメッポを誘ったわけだ。
「叩き起こしたの間違いだろ、迷惑女」
「まぁ、そういう見方もある。私は大人だから反論はしませんよ!」
忌々しげに舌打ちをしたヘルメッポに名無しはうんうんと頷いて、持っていた雑巾をバケツの中に放り込んだ。
「こいつホントに迷惑なんだけど…なぁ、お前もそう思うだろコビー」
鼻唄混じりに雑巾を絞る名無しを見て、眉間にシワを寄せてわざとらしく舌打ちをした。
話を振られたコビーは、名無しとヘルメッポを交互に見つめて気弱そうに眉を下げる。
「でも早く終わることはいいことだし、いつも負担がかかってるのは事実ですから」
ぐちぐちと嫌味を言い続けるヘルメッポを宥めるようにコビーが笑うが、それを聞いていた名無しがキレて濡れた雑巾をヘルメッポの顔面に投げつけた。
「私よりも先に入隊してたくせに文句ばっかりで掃除もろくに出来ないとか。給料泥棒じゃないの?」
べちゃっ、と雑巾がヘルメッポの顔面に当たって床に落ちた。
暫く呆けたように立っていたヘルメッポだったが、コビーが恐る恐る顔を覗き込んだ瞬間いきなり震えだした。
「なんだと…?黙って聞いてりゃぁ…やんのかてめぇ!!」
「上等じゃゴラァ!ケツ顎カチ割ってやるわこのクソ野郎が!」
「やめてください二人とも!!見つかったら懲罰ですよ!!」
胸ぐらを掴み合って額をぶつける二人を宥めようとコビーが近づいたが、二人の肘が当たってその場に崩れ落ちた。
今回の被害者
「…筋トレ追加とか」
「てめぇのせいだろ」
「黙ってろケツ顎。マジで顎カチ割るぞ」
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