三歩進む



久しぶりに出た外は、相変わらずのんきで物騒だった。
大きく伸びをすると、背中からはボキボキと小気味のいい音が聞こえ、若干だが背筋が伸びた気がする。

手は血まみれ、身体は火傷だらけ、目は焼けて充血していて、身体的には悲惨な感じだが、奇跡的に満足するような刀が出来たので充実感はある。


「あー、お疲れさん」


爽やかな気持ちで一歩踏み出した瞬間に聞こえたその声に、充実感は足元から一気に崩れ落ちた。
海兵だったことなどすっかり忘れていたが、怠そうなその声を聞いてハッキリと思い出してしまった。給料も貰えないのに、海兵であるという面倒な肩書きだけがついて回るのも嫌なものだ。


「出たな悪の根源!全ては貴様から始まったことだぞ!」

「あららら。今回のことに関しては俺は完全に無関係じゃあないの」


振り返ると同時に刺し殺す勢いでクザンを指を差すと、それに乗せられたようにクザンはやる気なく両手のひらを見せるようにして軽く上げる。
クザン程の強者があっさり降参ポーズを取って見せるのは、弱者から見れば馬鹿にされているようなものだとしみじみ思った。


「違う!だって元々白骸は私のなのに!確かに折ったけど!9割強私のせいだけど!」

「名無しちゃん、なに言ってるのかわからないからちょっと落ち着いたら?」

「白骸直したよ!ああ、直したとも!」

「あー……、直ったんだ?」

「なにその反応!私がどれだけ苦労して直したと思ってんの!?」


意外、と言わんばかりに頭を掻きながら少し目を丸くしたクザンだったが、それ以上の言葉は続くことなくその場には微妙な空気が流れた。
別に誉めてほしいわけではないが、もう少し反応があってもバチは当たらないのではないかと名無しは思う。


「名無しちゃんってば変なところが真面目だね。直すふりして壊しちゃえばよかったのに」


まるで見透かすようにそう言ったクザンに、名無しは思わずギョッとして一歩引いた。


「その為にわざわざ名無しちゃんのところに戻したんだから」


含みを持つような笑みをうっすらと浮かべたクザンは、立ち竦んだ名無しの頭を撫でるように二度、軽く叩いた。















三歩進む


「もじゃ男ってば不気味!」

「ミステリアスの間違いじゃなくて?」

「不気味!」



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テーマ「人外ファンタジー」
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