定期的に聞こえる槌の弾ける音は、シャボンディにはあまり似つかわしくない。
たまたま通りかかった人も不思議そうな顔で工房の方に訝しげな視線を送る。
名無しが工房に篭ること約一ヶ月。何十回も繰り返されているあろう作業は、素人には終わりが見えずに途方もない作業に感じる。自分は能力者故にあまり刀を使わないが、剣士がより良い刀を手に入れたがる理由がなんとなくだがわかった気がした。
「こんなのを見ると名無しちゃんの探してる刀の価値を嫌でもわかっちゃうよなァ」
「フッフッフッ、そりゃあ俺への当て付けかなんかか?」
独り言のように呟いた言葉に、当たり前のように反応したドフラミンゴは、背中を丸めたままポケットに手を突っ込んだ。
「当て付けって感じる時点で後ろめたいことでもあるって言ってるのと同じじゃあねぇの?」
「お前が言い出したんじゃねェか」
名無しの様子を見に来たであろうドフラミンゴだったが、さすがに大将である自分の前を素通りは出来なかったらしい。
素通りしたところで特になにも言う気はなかったが、せっかくなので少し突っついてみた。
思いの外ドフラミンゴが反応を見せたのが意外だった。
「名無しちゃんは一応海兵なんだけど、わかってんの?」
強制的に刀を造らせる展開に持っていったことに文句のように呟くと、ドフラミンゴはそんなことなど全く気にしていないかのように短く笑った。
「お前こそ名無しの造り出す刀の利用価値がどれだけあるか知ってるのか?」
フッフッフッ、と不気味な笑い声を漏らしたドフラミンゴに眉を顰める。
四皇や天竜人とも繋がりを持つドフラミンゴからしてみたら利用価値がある名無しが海兵になってしまったことの方が憤りを感じているのだろう。
「利用されるのが嫌で逃げてたんじゃないの」
「だが帰ってきたじゃねェか。どうせアイツには鍛冶しか残らねェ」
「そいつはお前が決めることじゃあねェよなァ」
自分本意なドフラミンゴの意見に頭を掻きながらため息を吐く。
いくら七武海でもドフラミンゴは海賊は海賊だ。どう転んだところで意見が合うことはない。
名無しも利用されていることはわかっているのだろうし、他人がとやかくいうことではないことぐらいわかっているのにどこか釈然としない。理由は多分寝不足のせいだ。
蚊帳の外の話
「フッフッフッ、こんなところにいないで仕事したらどうだ?」
「見張りが仕事みたいなもんだよ」
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