流れる汗はぽたぽたなんて可愛らしいものじゃない。滝のようにぼたぼたと流れては落ちて流れては落ちる。
火を焚くからということもあるが、工房特有の造りから熱が逃げにくいということもある。
「名無しちゃん調子はどう?」
「シャッキーさん」
拭うことすら諦めた汗が土間にひっきりなしに落ちていく。
火炉の火は収まり、刀としての形がなんとか出来ているのを見て、シャクヤクはにっこりと笑った。
手のひらは豆が潰れて血と汗でぐちゃぐちゃだし、鍛える際の火花であちこち火傷している。一応は保護服を着ていたが、完全に塞ぎきることは出来ない。
焼き入れの作業に漸く終わりが見えたことで集中力に翳りが見えたため、休憩をしていた時のシャクヤクの訪問だった。
毎回怖いほどのタイミングで現れるのがシャクヤク。
「サンドイッチ持ってきたわ。お茶も」
「わかってるよ、寝ろって言いたいんでしょ」
「わかってるなら話が早いわ」
煙草をくわえたまま頷いて笑ったシャクヤクは、目の前にサンドイッチとお茶の入った篭を静かに置いた。
何度かシャクヤクにこうやって差し入れをして貰ったことがあるが、毎回食べた後にあり得ないほどの眠気に襲われて倒れるように眠る。
いくら馬鹿でもこう毎回同じパターンが続けば嫌でも気が付く。
「もう2日打ちっぱなしでしょ?そろそろ寝ないとレイさんが心配するわ」
「刀の出来を?」
「名無しちゃんの身体をに決まってるじゃない」
水瓶で手を洗ってから、シャクヤク特製のサンドイッチを摘まんで口に突っ込みながら適当に頷く。
シャクヤクは毎回同じことを言うが、レイリーが心配する姿なんて一切想像出来ないし、仮に想像出来たとしても気持ちが悪すぎて寝込むレベルだ。
「厳しいのは名無しちゃんのためを思ってのことよ。そうじゃなきゃ関心すらないのよレイさんは」
「違う!あれは関心という名の絶対支配だ!あんなボカスカ殴っといて関心で済まさ……れる、」
一気にお茶を飲み干したせいか、目の前がぐらりと揺れて意識が薄れていくのを感じた。
飲み込まれていくように倒れると、身体の力が嘘のように抜けていく。
シャクヤクが小さな声でおやすみ、と言ったのを聞いた。
魅惑のサキュバス
「シャクヤクさん、4時間で……起こ……し、て」
「ええ。ゆっくり休んで」
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