最強の見張り



名無しが工房に籠って既に数週間。その間姿を見せることはなく、中からたまに奇声のような叫び声が聞こえたことはあった。

ぼったくりバーのシャクヤクが食べ物を持って工房に入っていくが、数分も経たずに工房から出てくる。
毎日見ているわけではないので正確なことはわからない。何故ならシャクヤクもレイリーも名無しのことはなにも話さないからだ。


「兄さんもよく飽きずに通うわね」

「あー……俺は暇だからね」


目の前に出されたグラスには並々と水が入っている。酒に手をつけずにいたら勿体無いと水になった。それでも毎回きちんと酒代は取られている。


「仕事柄そうは見えないけど」

「あららら。これでも仕事が出来るのよ」

「ふふふ。そうなの?てっきり仕事から逃げてきてるのかと思ってたわ」


くわえていた煙草を指に挟んだシャクヤクは、綺麗な笑みを浮かべながら紫煙を細く吐き出した。
新聞を流し見ながら氷をピックで削る姿は情報を貪欲なほどに欲しているように見える。


「まあ、否定はしないけどね」

並々と水が入ったグラスに口を付けると、シャクヤクがちらりと時計を確認してから冷蔵庫からサンドイッチを取り出した。
ラップがかかったその皿と水筒を篭に入れたシャクヤクは、端に座っていたレイリーに目配せをしてから新しい煙草に火を点ける。


「少し出掛けてくるから帰るならお金は置いていって頂戴」


いつものように煙草をくわえながら篭を手にかけたシャクヤクは、振り返ることなく裏口から出ていった。
時間的に食事の時間としては中途半端な時間であり、前の食事の時間からかなりの間隔が開いている。


「名無しは仕事をし出すと寝なくなるからね。タイミングを見計らってシャクヤクが行って寝かせているんだ」


顔に出したつもりはなかったが、レイリーが説明するように口を開いた。


「強制的にって風に聞こえるのは俺の気のせい?」

「さて、それはどうだろう」


含みを持ったような笑みを浮かべたまま酒を飲み干したレイリーの言葉から、シャクヤクが無理矢理名無しを眠らせているところが容易に想像できた。


「あんた等に任せてたら大丈夫みたいだし、俺は駐屯基地にでも行ってくるか」
















最強の見張り


「帰るなら代金を置いていきなさい」

「あららら。奢ってくれねェの?」



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