必要最低限である工房の埃を払ったところで名無しは深いため息をついて地べたに座り込んだ。
埃を払ったと言葉で言うだけなら簡単だが、長い時間をかけて積もった埃は雨漏りのせいもあり固まってしまっていてとんでもなかった。
「あーお腹空いた。さて、じゃあ仕事するから出ていって」
「あららら、ご飯食べないの?」
「なんかあるの?なんかあるならくれよ」
「……かき氷とか」
「……」
ぎゅるぎゅると化け物の声のように鳴り響いた名無しの腹に、クザンはとぼけたように首を傾げた。
そんないい歳したおっさんが首を傾げたところで可愛くはないし、自分で振っといてとぼけたような顔をされても困る。
「かき氷?それははたして本当にかき氷なのでしょうか?もしかして本当はただの氷なんじゃないでしょうか」
「自分で削ればいいじゃない。本職でしょ?」
「なにそのお菓子を食べればいいじゃない的な逆ギレな発想!」
「あららら」
「あららじゃねぇぇぇ!」
ボリボリとのんきに頭を掻きながら名無しに眠たげな視線を向けてくるクザンは、面倒になったのかフェードアウトしかけている。
少し黙ったら確実にあの重そうな瞼が降りていくだろうと思う。
「もうわかったから表に出ろ」
「俺、事なかれ主義だから」
「いや別になにもしないし!仕事にするから出ていけって言ってんの」
勝手にあぐらを組んで座り込んでいるクザンの前に仁王立ちして上から見下した名無しは、眠そうな耳にしっかり聞こえるように大きな声ではっきりと告げる。
若干煩そうに目を細めたクザンだったが、スキル事なかれ主義が発動したのか、特に何を言うわけでもなくゆっくりと立ち上がった。
低い天井につきそうな頭を少しだけ丸めて欠伸と共に間延びした声を漏らす。
「名無しちゃん」
「嫌だ」
「まだ何も言っちゃいねェよ」
「すまん、なんか本能で」
「あー……なんだ、その……なんだ」
ポケットに手を突っ込んで背中を丸めるクザンは隙間だらけの天井を見上げながらぽかりとだらしなく口を開ける。
何かをいいかけたクザンの言葉の続きを待っていた名無しだったが、クザンはそのまま口を閉じた。
事なかれ主義の悪戯
「なに!?なんでそこで諦めたの!?」
「いや、忘れた」
「はっ!?」
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