「……」
「……」
レイリーの用意してくれた工房はいまにも崩れ落ちそうな建物だった。無理を言って急遽用意をしてもらったので、あまりわがままも言えないがそれをさっ引いても酷い。
「名無しちゃん、入らないの?」
「ちょっと待てよ。順応性があり過ぎる私でも少しは戸惑うんだぞ!?」
「あららら。そうなの?」
「そうだ。仕方ないから入るけど……」
壊れかけた木の引き戸に手をかけてみたが、がたがたと引っ掛かってばかりで動かず仕舞い。
心を静めて何度かチャレンジしてみたが、最終的には引き戸を蹴破った。
「戸惑ってるわりにはやることが粗暴だよね」
「時短よ時短。ドアとダンスする気なんてないし」
倒れたドアのせいで部屋の中に埃が舞い上がって、薄暗い部屋の中がキラキラと光った。
「汚っ!やだーっ、名無しこんなところ入りたくなーい!」
ずかずかと汚い家の中に入り込んだ名無しに、クザンはあららら、とまた呟いた。
クザンのあららほど中身のないものはこの世に存在しない気がする。
汚い汚いと連呼しながらも奥へ奥へと進んでいく名無しの後ろからクザンが面倒そうに少し頭を下げながらついていく。
「嫌がってるわりに随分足は進むじゃあねぇの」
「身体は正直ってやつよ」
「おじさん臭いね」
「王道が好きなだけだし」
「え?なんの話?」
「え?エロ本の流れじゃないの?」
「いつの間に」
埃っぽい工房の中で作業道具である金床を見つけて、積もった埃を手で払う。
積もった埃の重さが長い間放置されていたことを示している。
天井を見上げればトタンが剥げてしまって隙間が開いているし、すきま風も凄い。
この状態で建っていたというのが奇跡に近い気がする。
「掃除……掃除しよう」
「頑張って」
時間がなく、いち早く取りかかりたいものの、ここまで作業場が酷いと仕事にならない。
それなのにクザンは相変わらず他人事で、手伝うような素振りは全く見せない。
「そこは手伝おうか?って言うべきなんじゃないの?このクルクルパーめ」
「手伝おうか?」
「邪魔だからいい」
「あららら」
リピート
「名無しちゃんって天の邪鬼だよね」
「自覚はある」
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