キッドと一緒にぶっ飛ばされた青チャリは、思いの外ガタガタのボロボロになっていた。
タイヤは四角になっているし、サドルもペダルもない。
「あららら、随分と可哀想な姿になっちゃって」
「これもあんたの管理が行き届いてなかったせいだよ。まさに自業自得」
「鍵はつけてたはずだけど」
「残念なことに鍵は跡形もないけどね」
ボロボロになった青チャリには鍵なんて付いていた形跡すらない。確かめるように足でつんつんと青チャリを蹴ると、がちゃんとなにか部品が落ちるような音がした。
「名無しちゃんもしかして青チャリ奪還に行ってたの?」
「まさか。たまたま通り掛かったら……捨ててあった」
説明が面倒だったので色々はしょったら、キッドの存在はなかったことになってしまったが、特に問題はないだろう。
海軍のくせに海賊を逃がしたと怒られることもなくて一石二鳥だ。
「なんか飛ばしてない?」
「まさか」
「赤い髪の毛の男のこととか」
「なにそれー!赤い髪の毛とかマジウケるー!そんな人見たことなーい」
「あららら。名無しちゃんが会ってた四皇の一人の髪の毛も赤かったと思うけど?」
「知らん。四皇とか私は知らんぞ!」
「顔になんで知ってるんだって書いてあるよ」
「……」
ドフラミンゴのところに行ったことは一切口にしていないのに、全部知っていると言わんばかりのクザンに名無しは口を噤んだ。
海軍本部の情報網は凄いことは知っているし、別に知られても後ろめたいことはないから別にいいのだが、知ってるなら聞くなと思う。このやり取り自体不毛だ。
「前から聞こうと思ってたんだけどさ」
「あー、名無しちゃんが俺に?珍しいね」
いつもより少しオーバーにリアクションをしたクザンだったが、それでも反応は微妙としか言いようがない。
「もじゃ男って私のストーカーみたいだよね」
「もっと違う言い方ない?」
「私の……金魚のフンみたいだよね」
「あー……」
折角言い換えたのに、クザンの表情は冴えることなく、間延びした言葉からどうでも良さそうな雰囲気がひしひしと伝わってきた。
神出鬼没の雉
「俺がその問いに答えたら名無しちゃんはショック死しちゃうよ」
「ならいい!聞かない!」
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