「ブラックスミスが手を潰すような馬鹿な真似をするんじゃあない」
「地味に痛い」
こつこつと細い鉄の棒でリズミカルに頭を叩かれ続けて約5分、最初は避けていたが見聞色を使うことに疲れてしまい、後半はずっと叩かれっぱなしだ。
避けるのを諦めたら叩くのも止めるかななんて淡い期待を抱いていたが、人生はそんな甘いものではない。
まさに完全縦社会だ。
「助けといて自分で止めをさすパターンかコレは」
「うぬぼれるんじゃあない。私は名無しを助けた覚えなんてないぞ」
「言いにくいんですがそれはまさか…」
ボケたのか、と言おうとしたのを察知したのか、レイリーは言葉をかき消すようにスコーンッと名無しの頭を叩いた。
「わたしが助けたのは寧ろあの若い彼の方だ」
「吹き飛ばした彼の方か」
「ああ、あのままだったら若い芽が潰されるところだったからね」
軽く咳払いをしながら名無しの背後に目配せをして見せたレイリーを見たときは一瞬誘われているのかと思って頭を疑った。勿論レイリーの。
それはない、と気がついてから後ろを振り返ると、そこには茂みに隠れきれていないチリチリの髪の毛が見えた。
「……」
「彼が出てきてしまうとぶっ飛ばした位じゃ済まなくなるだろう?」
そう言ったレイリーの目は名無しには向いておらず、後ろにいるであろうクザンに向いている。
牽制しているのか、それともただ単に視線を向けているだけなのかわからないが、心配しなくてもあれは多分座りながら寝ているだけだ。
それがたまたまここだっただけで、他意なんてない。キッドに攻撃を加える気なんて更々なかった筈だ。
「彼はその、一応海軍大将なんだけど面倒臭いことはしないタイプの偉い人なので問題はないと思います」
「名無しは彼を見くびっているようだが、それは違うな。あれは表面的なもので彼の本質はもっと」
「あーあーあー」
難しい話に突入しそうだったので、無意識に規制音を出してしまったところ、レイリーに頭を叩かれた。
別にクザンのことを見くびっているつもりはないし、本当に適当人間だとも思っていない。
ただ、今回の件はどう考えてもレイリーの考えすぎだ。
背後に大将
「ところでキャプテンは大丈夫かね」
「なに、この位で死ぬならこの先は生きていけないよ」
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