かなり身構えていたキッドを華麗にスルーして、キッドに向かってくる玉鋼をキャッチする為に鉄屑を足場にして空を飛んだ。
「よっしゃぁっ!」
気合いで吸い寄せられる前に玉鋼をキャッチしたのはよかったのだが、一緒に吸い寄せられるという事態になってしまった。
「止めなさいよこの鉄マニア!人の物に手を出すとはどういう了見だ!」
「ごちゃごちゃうるせェんだよ!」
華麗にスルーした際には少し驚いた顔をしていたが、喧嘩を売られると反射的に噛みついてしまうらしく、なんとなくキッドには親近感を覚えた。
売られた喧嘩はなんだろうと買ってしまうところなんてシンパシーすら感じる。
そんな下らないことを考えながら足を踏ん張って磁力に逆らってみるが、あまりの強さに踏ん張った足が地面に埋まっていく。
「ぐぎぎぎっ!負けてたまるかってんだこんにゃろーっ!」
必死に踏ん張っている名無しに畳み掛けるようにキッドが巨大化した鉄の手を振り上げた。
手を離して逃げないと間違いなく潰されてしまうのはわかるのだが、はいそうですかと離せる筈がない。
「馬鹿が!潰れろ!」
「誰がそう簡単に潰れてやるか!」
引っ張っても動くどころかキッドの方にしか動かない玉鋼に、ギリギリと奥歯を噛み締めながら気休め程度に首を縮めた。
目の前に迫った死に、しかたなく来世の生き方を考えた瞬間、趣味の悪い外套が目の前に広がった。
「やれやれ。工房の方にいなかったから見に来てみれば。どうしてこんなことになってるんだね」
呆れたような声が図上からして、裾がボロボロになった外套がはためく。
ゆっくりと視線を上げると、そこには一線を退いたとは思えないような体つきの爺さん、シルバーズ・レイリーが立っていた。
右腕一本でキッドの攻撃を受け止めているところなんて、さすがとしか言いようがない。
「なんだテメェは!邪魔してんじゃねェぞ!」
攻撃を受け止められたのが余程気にくわなかったのか、キッドの怒りは名無しからレイリーに矛先を変える。
薙ぎ倒すように向かってくるキッドの鉄の腕を、レイリーは顔色一つ変えずに押さえ、易々と懐に入り込んで鳩尾辺りに一発プレゼントしていた。
「君はまだ若い」
当たり前のように飛んでいったキッドにレイリーは独り言のように呟いた。
若さとプライド
「なに格好つけてんのこのジジイ……もっと謙虚になれ」
prev next
193