ガタガタと椅子を鳴らしながら身体を左右に大きく揺らす名無しは、むすっと顔をしかめたままレイリーを睨み付けた。
別に守ろうとか、そんなおこがましいことを考えていたわけではないが、過去とはいえ海賊王の副船長が海軍大将と鉢合わせするのはマズイと思ったのだ。馬鹿なりに。
それなのに、呼んだ?みたいなノリで出てきたレイリーには軽く殺意がわく。
「やっぱりアンタか。シルバーズ・レイリー」
「その名前で呼ばれると些かむず痒いものがあるな。今は皆にレイさんと呼ばれている」
照れたように笑いながら蓄えたヒゲを撫でるレイリーは、闘志などは全くない。無意味なフレンドリーさだけを振り撒いている。
これがレイリーの怖さだ。
敵視することなく、淡々と敵を排除していく。
レイリーにとっては好きだとか嫌いではなく、敵かそうじゃないか。この二通りしかそんざいしない。
どんなに嫌なやつでも邪魔さえしなければ相手にしないし、逆もまた然り。
「生きる伝説は今も健在、か。俺らの立場がねェなぁ」
わざとらしくため息を吐いてクザンが肩を竦めると、レイリーから余裕のある笑いが漏れた。
一触即発状態のそれを目の前で当たり前みたいな顔で見ているシャクヤクもある意味凄い。
メンタル強すぎる。
「年寄りが一人二人生きてたからといってなにも変わりはしないさ。一番怖いのは若さだ」
「若さも怖いが、アンタほどの経験者も怖いね」
静かに語る二人だが、シャクヤクから視線を全く反らさずに語っているためか、独り言のように聞こえる。
「あのさ……!」
「名無し、座っていなさい」
「うっ!」
空気に耐えられなくなり立ち上がった名無しだったが、威圧するようなレイリーの静かな声にへたりこむようにカウンターに腰を下ろした。
飲み込むように名無しを威圧する空気は、下手に気を抜くと意識を持っていかれてしまうぐらいの覇気だった。
「レイさんったら名無しちゃんまで威嚇することないじゃない」
煙草を口の端にくわえながら困ったようにため息を吐いたシャクヤクは、だらだらと冷や汗を流す名無しの肩を軽く叩いた。
ほぼ空気
「あららら。うちの部下になにしてくれてんの?」
「わたしの知り合いが煩くしてしまったので注意したまでだが?」
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