「用事があるんだった!そうだ!そうだ!」
わざとらしく手を叩きながら立ち上がった名無しに、クザンは特になんの反応も示さなかった。
今のクザンの心情を読み解くならば、間違いなく『好きにしたら』だろう。
弄るのは趣味、とか気味が悪いことを言ったわりにはあまりにも無関心過ぎると思う。
「誰かが言ってたよ。無関心は人を殺すんだ!」
「あららら」
切羽詰まった感じで叫んでみたのはよかったが、相変わらずクザンからの反応は薄い。
人の必死の訴えをあらららで片付けてしまえるクザンはある意味強靭な精神の持ち主だ。絶対に見習いたくはない。
「なんで酒一杯でここで粘んの?店としてはスゲー嫌な客だよ!せめておかわりしろよ」
「俺あんまり酒は強くねェのよ」
やれやれと言ったような感じ肩を竦めたクザンは、底に残った酒で氷を溶かすようにグラスを大きく回す。
ぶっちゃけそんなわけがある筈がない。
そもそも酒に強くない人間はロックなんか頼まないだろう。
クザンの言うあまり強くないと言うのは、化物級に飲むやつらから比べればという前置きが抜けている。
「そもそもここぼったくりバーでしょ?どうせぼったくるんだから店としては別にいいんじゃねぇの」
「人聞きが悪い!ここのどこがぼったくりバーだって…いうんだ」
「ぼったくってるところに居合わせたからね」
無法地帯と言えど、海軍大将にぼったくりがバレたら潰されかねないのでとりあえずフォローしたが、搾り取られた後の海賊が店の外にごろごろと捨てられているので語尾が若干弱くなった。
「おやおや、今日は随分と繁盛してるじゃないか」
「あら、いらっしゃい」
「げっ!!」
キィ、と扉の小さな悲鳴と共に暢気な声が聞こえて、名無しは心底嫌そうな声を出した。
振り向かずともわかる。余裕ぶったというか全てを見透かしたような声はレイリーしかいない。
せっかく鉢合わせしないように人が必死になっているのに、そんなことお構いなしだ。
もう捕まってインペルダウンにぶちこまれてしまえばいいと思う。
終点はインペルダウン
「失せろクソジジイ!」
「ハハハ、そう命を粗末にするんじゃあない」
「手違いで心の声が漏れました」
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