破天荒ガール



長い長い廊下はどこまで行っても廊下だ。



「名無しさん!」


海軍本部で最も長いと言われている廊下の拭き掃除を命じられた名無しは、凛とした声に面倒そうに顔を上げた。
そもそもなぜこんなところをたった一人で掃除することになったかと言うと、サカズキに後ろから殴りかかろうとしたからだ。後悔は全くしていない。


「なんだっけ…えーと、眼鏡ちゃん」


全力で廊下を何周も走り抜けたせいでまともに呼吸も出来ない。3、4週したところで既に30分は過ぎていると思う。
あと10週以上はしなくてはいけないと思うと気が遠くなるが、ここでめげてしまうとサカズキが馬鹿にして笑うので、それだけは絶対に避けたい。


「たしぎです!言っときますが私は名無しさんよりも位が」

「もうくたばればいいのにサカズキとか」

「止めてください!私と一緒にいるときに大将の悪口を言わないでください!」



思い切り舌打ちをした名無しは持っていた雑巾を床に叩きつけて、靴底で強く踏みにじった。
それを見て顔を青くしたたしぎは、眼鏡を押し上げながらキョロキョロと周りを見渡しながら声を潜める。


「ダメだよ眼鏡ちゃん。下の使命は下剋上を目論むこと!あんなイヌっコロに恐怖心とか感じたら世の中おしまいだよ!」

「やめて下さいーっ!聞こえたらどうするんですか!?離反だと思われたら!!」


ぐりぐりと雑巾を踏みつけたまま足を動かす名無しは、憎しみの全てを足に込めた。


「で?なんか用?私今廊下掃除で忙しいんだけど」


漸く雑巾から足を離した名無しは、まだまだ走り回らないといけないであろう長い廊下を振り返って大きくため息を吐く。
名無しの言葉に慌てたようにたしぎが眼鏡を押し上げて、少し恥ずかしそうに視線を持ち上げた。


「あの、…」


もじもじと恥ずかしそうに目を伏せて肩に力を入れたたしぎは、告白前の乙女のようだ。
名無しが女だからよかったが、男を目の前にしてこんなことをしたら速攻部屋に連れ込まれるだろう。たしぎを連れ込める強者は早々いるとは思えないが。


「エロ眼鏡め、モテない女に喧嘩売ってんのか。死ね!」

「なんですか失礼な!そんなことはしてません!」


眉をつり上げて怒るたしぎは怖いとは言い難い。これぐらいならば部下も怒られても怖くはないだろう。サカズキも見習ったらいい。


「名無しさんの刀、見せてくれませんか?実は黒骸のほうは一度も見たことがないんです!」


目をキラキラと輝かせたたしぎは、名無しの腰元に視線を落として懸命に視線を泳がせる。


「…あー、刀?どこやったっけ?ズッキー殴った時に没収されたかも」

「……ズッキー?」

「サカズキ」

「……」



キラキラと輝いていた瞳から光が消えて、眼鏡がずりっとずれた。


「そうだ眼鏡ちゃん、ズッキーのところ行って刀取り返してきてよ」

「無理です」


















破天荒ガール


「じゃあキジに取ってくるように頼んできて」

「無理です」

「眼鏡ちゃん、ワガママだね」




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