モブの一日



まさか元海賊王の右腕に会いに来ましたとも言い出せず、いかにしてクザンを追い返そうか考え込んでいた名無しに、助け船を出すようにシャクヤクが口を開く。


「そうそう、レイさんからこれ頼まれてたんだったわ」


小さめの箱をカウンターの下から取り出したシャクヤクは、軽くウインクをしてみせる。
こんなにも魅力的な、意味深なウインクは初めて見た気がした。


「そのレイさんってのが名無しちゃんのパトロン?」

「パトロンって言うな」

「是非上官として挨拶しときたいもんだけどね」


たいして人に興味なんて持たないクザンからあり得ないような言葉が飛び出して、店の中の空気が固まった。
と言っても、固まったのは名無しだけで、シャクヤクはいつものように煙草をくわえたまま新聞を読んでいる。


不自然に固まった名無しの表情からなんらかを読み取るのはクザンにとっては息をするほど容易な事だろう。
もう少し隠し事が上手く出来ればいいのだが、小難しく考えると頭が爆発してしまいそうになるので名無しには不可能だ。


「なな、なに急にまともな事言ってんの?センゴクもびっくりだよ!」

「あらら、俺は案外真面目よ?名無しちゃんはレイさんとやらを尊敬してるみたいだし、一度会ってみてぇもんだけどね」

「そんけい?なにそれ?美味しいの?」

「名無しちゃんって本当に嘘が下手くそだよね」


呆れたようにグラスに口をつけたクザンを見た瞬間、謀られたことに気がついた。
クザンはわざと動揺させるようなことを言って機微を読み取ろうとしているらしい。


「もじゃ男は相変わらず性格悪い!」

「性格悪くなきゃ海軍大将なんてやってないよ」

「そりゃそうだ」


シャクヤクから渡された箱をぽんぽんと叩きながらクザンの言葉に頷いた名無しは、諦めたようにカウンターに腰を下ろした。


「心配しなくても私なんか見た通りなんの力もないし、海軍に不利なことしたりしないよ」

「あー、そりゃあ見ればわかるけどね」

「完全モブ扱い!自分で言っといてちょっと傷ついた!」















モブの一日


「名無しちゃんを弄るのは俺自身の趣味だよ」

「趣味、悪い!」




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