「おうおう!テメェ人の刀のレプリカ売ってるらしいじゃあねぇかこの野郎!」
一番奥にあるVIP専用の部屋に通された名無しは、高そうな重厚なドアを足で蹴破る勢いで開けた。
相手を威嚇する為には、最初が肝心だと誰かが言っていた気がする。
「……来たか、名無し」
「ぶーっ!!」
肩で風を切りながら勢いよく部屋に入ったのはよかったが、その部屋に広がっていた景色は名無しが想像していたものとは全く違うものだった。
名無しが想像していたのはいつものようにドフラミンゴが偉そうにソファに腰かけている姿だ。シャンクスに凄まれているドフラミンゴの姿なんて想像もしていなかった。一ミリも、だ。
いつも座っている高級そうなソファの背凭れ、ドフラミンゴの首の真横にはシャンクスの愛刀が刺さっているし、滲み出る修羅場感が凄い。
「あのー、部屋を……間違えました」
逃げ出そうと後ろを振り返った瞬間に、ギギギギッと重厚なドアが音を立てて閉まって、風圧で髪の毛がふわりと揺れた。
「お前を待ってたんだ、名無し」
逃げ出そうとしている名無しに、シャンクスが口だけを動かす。勿論ドフラミンゴから目を離すなんて馬鹿なことはしない。
「久しぶりだね、なんかその、お取り込み中みたいだけど……げ、元気そうでよかったよ」
「お前の」
「ひっ!」
取り繕ったような言葉に被せるように大きな声でそう言ったシャンクスに、名無しはびくりと肩を竦ませた。
シャンクス自体苦手でも怖くもないが、張り詰めた空気のせいで今にも飲み込まれそうな感じが否めない。
少しでも気を抜いたら容赦なく意識を持っていかれるだろう。
「たまたまシャボンディに立ち寄ったらお前の刀が売ってるって聞いてな」
「ああ、レプリカだったから怒ってんの?」
どんな深刻な話だと緊張しながら聞いていたが、余りにもどうでもいいことで変に声が裏返った。
「あまりにも駄作過ぎて名無しの顔見がてらに苦情を言いに来た」
「すげぇクレーマーだなおい」
「全くだぜ」
一言も発しなかったドフラミンゴが、名無しの言葉にようやく口を開いた。
八つ当たりクレーム
「なんか私の出番がなくなった」
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