「うぉあっ!」
不死鳥姿だったマルコに首根っこを掴まれていた名無しは、4番GRの上に落とされた。
シャボンがあるからとはいえ、スカイダイビングを体験することになるとは思わなかった。
数個のシャボンにぶつかりながら落ちていく様を、マルコが馬鹿にしたような顔で眺めているのが腹立たしい。
炎を触らせてくれたあの時の優しさは一体どこに置いてきたのか、甚だ不思議だ。
マルコを睨みながら落ちて、その結果後頭部を地面で強打した。次にあったら絶対にあの少ない髪の毛を刈ってやる。
深夜にも関わらず、シャボンがわき上がるその不思議な光景を空を仰ぎながら見ていた名無しは、旋回してから飛んでいく不死鳥に小さく舌打ちをした。
ぶくぶくとシャボンのわきあがる音と、シャボンが弾けるような音が妙に懐かしく感じながら暫くの間その幻想的な景色を眺める。
遠くの方では人攫い屋だか、海賊だかが妙に騒いでいたが、名無しとしてはどうてもいい。
シャボンディは、わりと海軍本部の近くにあるのに治安が悪すぎる。
その原因としてはドフラミンゴの経営する人間オークションが主だろう。
とにかくどんな人間でも買うし売るしで人攫い屋や海賊が大繁殖しているのだ。
とにかく全部ドフラミンゴが悪い。あいつほどの悪党はいないだろう。そしてあいつほどがめついやつはそうはいない。
「よっ、と」
大の字に寝ていた名無しは、身体をバネのように縮めてから勢いよく飛び起きる。
それと首の横に細身の剣が突き付けられたのはほぼ同時だった。
「大人しくしろ、女。抵抗しなきゃ殺しはしねぇからよ」
安っぽく輝きの鈍い剣は、多分首を飛ばすのにかなりの力を必要とするだろうと何となく可哀想になる。
ここら辺でこんな安っぽい剣しか使えないなんて、人攫い屋のチームでも下位。海賊狩りだとしても女しか狙えないカスなのだろう。最早同情してしまう。
「う、うるせぇ!大人しくしろってのが聞こえねぇのか!」
「すみません。なにぶん素直な性格なもんで」
ヒステリックに叫ぶ男の手に力が籠って、思わず降伏の意味を込めて両手を上げた。
どうやらドフラミンゴのところに行く手間が省けたようだ。
シャボンディ名物人攫い屋
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