暴れる雑用係



「し、失礼します。名無しさんこちらにいらっしゃいますか?」


控え目な声が響いて名無しは面倒そうに顔を上げた。
山積みの書類を消費し終わり、約束の情報をクザンから聞き出そうとしていた名無しにとって、自分を呼ぶ声は邪魔でしかない。


「メガネ、まだ私のこと探してたの?ストーカーかよ」


クザンの襟を掴んでいた名無しは、ドアの隙間から覗いていたコビーの姿を見つけてため息を吐いた。


「ガープ中将が呼んでますよ、なんでも名無しさんに用事があるらしくて」


黒渕の眼鏡は隠したはずだったが、コビーの頭にはいつもと変わらず眼鏡が鎮座している。
本来ならシカトしてクザンを締め上げたいところだが、ガープが呼んでいるとなれば話は別だ。
海軍自体はなんとなく好きになれないが、ガープはなんとなく憎めない。


「つっ…!」

「つ?もしかして舌打ちに失敗した?」

「………してません。失敗とかしてません!!つって言いたかったの!つって言葉が好きなの!」


クザンの仕事机をばしばしと叩いた名無しは、眉間にシワを寄せたままコビーを睨み付けた。


「もういい!ガープのとこ行ってくる!」


大袈裟にため息を吐いて見せたが、クザンは相変わらず見透かしたと言うか冷めた視線しかくれず、なんとも複雑な心境になった。
もっとこう馬鹿にするとか、おちょくるとか方法は沢山あると言うのに、よりによって一番酷い反応だ。


「無関心は人を殺すんだぞ!覚えてろ!!」

「あららら、別に無関心なわけじゃあねェよ?面倒くせェだけで」

「尚更悪い!!もっとノってこいよ!熱くなれよ!それでいいのか!?お前の人生はそうやって終わっていくのか!?」


中腰になって挑発するように手を掬い上げるように動かしてみたが、大きな部屋に名無しの声が響いただけで終わった。
くいっくいっと名無しの手だけが虚しく動く。


「……」

「…名無しさん、ガープ中将が」



冷めた目で見るクザンに、真顔で対抗していた名無しはコビーを振り返って震える指先でクザンを指差した。


「ちょっと殴っていい、よね?」

「ダメです!止めてください!相手は大将ですよ!?」


完全に引き釣ったような顔をコビーに向けた名無しは、ひくひくと口元を震わせる。


「大将…なにそれ?おい…美味しいの?」


ふらふらと再びクザンに近寄っていく名無しをコビーが後ろから羽交い締めで止めて、入り口の方へと引きずっていく。


「今の名無しちゃんじゃ俺に触れることも無理なんじゃあねェかなぁ」

「はぁぁぁ!?調子のんなよこの野郎っ!」

「名無しさん止めてくださいーっ!!」


















暴れる雑用係


「私今日から復習日誌をつけようと思う」

「日誌に止めてください、お願いします」





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