船の端には馬鹿



酔いを冷ますためか、甲板にゴロゴロと横になっていた名無しを見つけて、何となく近づいた。本当になんの意味もないのだが、視界に入ると話し掛けたくなる変なやつだ。


「なあ、お前刀集めてんの?なんで?」


ゴロゴロとダルそうに寝ていた名無しは、目をゆっくり開けてエースを見上げた。
これが綺麗な目だったり、睫毛が長かったりすれば少しはときめくのかもしれないが、名無しの目では特にときめくこともない。


「刀が好きだから。それ以外になにがあんの?脳みそは使わないと縮んじゃうよエースきゅん」

「お前に言われたくねぇよ」

「そりゃそうだろうね。もう私の脳みそは梅干しサイズだからなにも反論はしないよ、この馬鹿!」

「……」


自分で言ったことにゲラゲラと楽しそうに笑った名無しは、暫く笑い転げたあと深くため息を吐いた。
ごろんごろんと逃げるように端の方へと転がっていく。


「お前なんでそんな分かりやすい反応すんの?その話題から逃げたいのバレバレなんだけど」


視線でだけ名無しを追いかけると、ぐったりと床に伏せていた名無しが頭を上げる。
面倒そうに眉を歪めた名無しは何かを言いたげな顔をしたが、言うことすら面倒になったのか何も言うことなく再び頭を床にくっ付けた。


触れて欲しくない話題があるのはわかるが、ここまであからさまに話題から逃げるやつもある意味珍しい。
いつもはいつまで喋るんだと言うぐらい喋っているというのに、特定の話題が出た瞬間あからさまに逃げるその様は危険を感知した野性動物のようだ。


「基本的に自分の話をすんのは嫌だ!何故なら面倒だから!」

「はっきり言った」

「だってもう黒歴史だし!思い出したらキィィィってなる」


うがーっと悲鳴を上げてがしがしと頭を掻いた名無しは、ガツガツと床に頭をぶつけた。
正直、今だって黒歴史になりそうな行動しかしていないと思うが、それにも勝る黒歴史というのが凄い。


「なんか、悪ィ」


床に頭を打ち付けている名無しを見ていたら思わず謝ってしまっていた。
名無しはやっぱり変なやつだ。















船の端には馬鹿


「謝るから戻ってこいよー」

「もうダメ!あたいのことは放っておいてくれ!」



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