とある執務室でのお話



「そう言えば名無しさん、最近見ませんね」


書類を整えていたたしぎがふ、と外を見ながらぽつりと呟く。
たしぎの言葉に海軍本部内がやけに静かだと最近ダルメシアンやドーベルマンが将棋を指しながら言っていたのを思い出した。


「ああ、あの馬鹿なら……」


何かを言いかけたスモーカーだったが、出てきた言葉を珈琲で押し流す。
色々なところに広げてあった伝から、とある海賊の船名乗ったということを耳にした。

勿論そのことは直属の上司であるクザンの耳にも入っているはずだ。
それなのに元帥に報告がいっていないのは、クザンが意図的に情報を潰しているからだろう。

ならばたしぎにも言わない方がいいと、言葉は無理矢理飲み込んだ。
たしぎは中途半端に止められた言葉に軽く首を傾げたが、意図的に言葉を飲み込んだことを察して、聞かなかったようなフリをした。


「そのうちひょっこり帰ってくるだろ」

「そうですね」


葉巻を灰皿に押し付け、また新しい葉巻を切る。ゆっくりと葉巻に火を回しながら木箱に入った葉巻を一瞥した。
最近葉巻を買いに行くのは名無しの仕事になっているのだが、暫く帰ってこなさそうなので自分で買いに行かないといけなくなりそうだ。

名無しが買いに行くと、大量のオマケ葉巻がついてくるのでかなり助かっている。
聞くところによると、葉巻を売っている雑貨屋の草むしりを手伝ったり、掃除をしたりと雑貨屋でも雑用をしていたらしく、それのお礼にと葉巻をオマケして貰っていたらしい。

忘れていたのか、面倒だったのか本人はそんなこと一言も言っていなかった。


「名無しさんがいなくなったことって、もしかして白骸が関係しているんでしょうか?」

「さあな。なんにせよお前が気に病むことはねェだろ。そんなこと心配している暇があるならさっさと手ェ動かせ」

「は、はい」


止まっていた手を指摘すると、たしぎは慌てて書類を持っていた手を動かし、いつも通り勢い余って書類をぶちまけた。














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