周りが寝静まったからか、波の音がよく聞こえる。
月の光が黒い海に反射してキラキラと光り、幻想的な景色になっていた。
「……」
そんな景色に浮かび上がったのは青い炎を纏った不死鳥だった。
「お疲れさん」
船の縁に足を着いたと同時に青い炎が強く燃え上がり、そして不死鳥姿から人間の姿に変わる。
眠たげな腫れぼったい目が、声をかけたサッチを一瞥してから不機嫌そうに歪む。
「あんなの、肩慣らしにもなんねぇよい」
「まさか沈めてねぇよな」
「通信全般の破壊と修復が不可欠な程度の破壊だろい」
確認するようにそう口にしたマルコは、首を大きく回してため息を吐いた。
名無しが船を降りるにあたって、海軍の見張りつきのままというわけにはいかない。
仕方がないので本部との連絡手段を絶ってから急遽帰還しなくてはいけない程度に見張り船を破壊することになったわけだ。
来るときはノーガードだったので、そもそももう見つかっていたらアウトだが。
「なんでアイツもわざわざ海軍なんて面倒臭ぇ所に入隊したんだかな」
「バカだからだろい。それ以外になんかあんのかい」
あっさりと言ってのけるマルコに、言葉は続かない。
もちろん名無しが馬鹿だからということに反論がないからというのもあるが、海軍をわざわざ選んだということが未だに釈然としないからというのもある。
「イゾウなんか絶対許さないと思ってたけど、案外あっさり許したよな」
「アイツは泳いでないと死ぬからな。イゾウはそれを知ってるだけだろい」
「マルコもだろ」
からかうように言ったつもりだったが、マルコにはそうは聞こえなかったらしく、適当な相槌だけが返ってきた。
こういう返事のときは基本的にあまり触らないで欲しいときだ。
なんだかんだでやっぱりマルコは名無しが気に入っているのだろうと思う。なんせ妹みたいなものだ。本人はちっとも女らしくないが。
気に入っているヤツが気が付いたら海軍側に居たなんて海賊側からしたら面白くないに決まってる。こればっかりは本人の意志だから仕方がないのだが、マルコの中では未だに割りきれない部分があるのだろう。
自分を含めて呆れるぐらい世話焼きが多いと改めて思った。
帰路整備
「せっかくだから海軍は名無しに食い潰されることを願うよい」
「おー……物騒だな」
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