モップ掃除が終わり、雑巾で水気を取るために端から端へとダッシュしていた名無しを見て、イゾウがぽつりと口を開く。
「シャボンディ、行くことにしたのか」
「あんだってー?」
イゾウの声が聞こえたときには既にイゾウの前をだいぶ通りすぎてからだった。
途中で止まったらどこまで拭いたかわからなくなりそうだったため、とりあえず端っこまで走りきる。
イゾウはハルタとは違って一応人の感情がわかるので、暫く待ってくれるので本当に助かる。それでもあまりに待たせると撃たれるのでダッシュで戻るが。
「ハーイ、ハニー!呼んだかい?」
ブンブンと雑巾を振り回しながらイゾウのところに走っていってスライディングした。
床が濡れていたせいか、いい感じに滑って止まる。
「スゲーどんぴしゃ!見た?見た?スライディングの神になれそうなぐらいどんぴしゃ!」
見て見てと言わんばかりに自分の止まった場所を指差した名無しだったが、イゾウは興味無さそうに紫煙を吐き出しながら落ちてきた横髪を指で耳にかけた。
「シャボンディ、行くのか?」
かつかつと船の縁を煙管で叩いて火を落としながら、目を伏せて視線だけを名無しの方に向ける。
いつも思うことだが、イゾウは無駄に色気を振りまきすぎだと思う。常に色気の大バーゲンだ。
下手な女では太刀打ちできないだろう。
「一応これでも自分の刀には愛着あるしね。ドフラ放っとくと何するかわかったもんじゃねぇもん」
埃まみれになった身体をあちらこちらかきむしりながら適当に相槌打つ名無しは、先のことを想像してため息を吐く。
百発百中よくない話があるに決まっている。
ドフラミンゴは特に母親を贔屓しており、援助を惜しまないらしい。母親が贔屓にしているのか、ドフラミンゴが贔屓にしているのかは定かではないが、腹の中で何を考えているのかわからない人間は基本的に馬が合わない。
「どう考えたって罠だろ」
「もしかしたらお菓子をくれるための呼び出しかも」
「……」
「罠ですよね。どう見ても罠です。本当にありがとうございました」
イゾウがあまりにも怖い顔つきで見ているものだからもう何も言えなかった。
心配性兄貴
「ついていってやろうか」
「いやいや!大丈夫だから!」
prev next
167