消えた3万ベリー



マルコがお願いを聞き入れてくれなかったので巨大シャコ貝を買った。特に理由はない。

身長の半分以上の巨大なシャコ貝を引きずって帰ってきた名無しを見て、留守番組だったサッチが唖然と口を開けた。


「いくらだよ、それ」

「中身なしで3万とちょっと」

「……」

「むしゃくしゃして買った」


入港したので何となく町を見て回っていたら、よくわからないひげのおっさんに押し付けられてしまった。
アルバイト料全額持っていかれたが、むしゃくしゃしていたのでその場のノリみたいなものに何となくノッてしまった感がある。

なにに使えるわけでもなく、ただひたすらに貝殻だ。


「あー……、シャボンディのことならマルコが親父に言ってたけど」

「えっ」


シャボンディの近くで降ろして欲しいとお願いしようと思っていたのだが、マルコには聞いてもらえなかった事だ。何故マルコが知っているのか不思議でならない。


「なんでマルコが知ってんの?まさか童貞拗らせて魔法使いになった?」

「マルコが童貞ってその発想がすげぇよ」

「マルコを相手にする鳥がいたことに驚きが隠せないよ!どこの雌ど…ぐぁっ!!」


がしっと後ろから首を掴まれて、力任せに持ち上げられた。
誰に、なんてそんな疑問は浮かばない。


「誰が鳥と交尾してるって?」

「あがが!首、やべぇ!」


マルコの手から逃れるようにバタバタと暴れた名無しは、反動で甲板に叩きつけられた。


「サッチ。テメェも余計なこと名無しに言うんじゃねぇよい」

「3万もする貝殻買ってくれば言いたくもなるだろ」


吐き捨てるようにサッチに言うマルコだったが、名無しが買ってきたなんの役にも立たなさそうな巨大シャコの貝殻を見て、盛大にため息を吐いた。


「なんだい。こりゃ」


サッチが指差した貝殻を見ながら額を押さえたマルコは、聞いているくせに多分答えは求めていないのだと思う。


「巨大なシャコ貝、かっこ中身なしかっこ閉じ」

「……ああ。随分と蹴り甲斐がありそうだ、よいっ」


納得したように頷いたマルコは、言葉の語尾と同時に思いきり貝殻を蹴り飛ばした。
硬い貝殻は、海面を滑るように飛んでいって見えなくなった。













消えた3万ベリー


「身代わりになってくれたと思えば、高い買い物じゃなかった気もするよね」

「そもそも買ってなきゃこんな無意味な会話もなかったんだけどな」



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