「名無しちゃん確かガープ中将の部下になったんだよね?」
「そうだね、そういう感じだったよね」
呆れたようにこちらを見るクザンは、逃げ出すための理由を探しているらしい。
さっきから出ていって欲しいオーラをひしひしと感じる。
感じるのは感じるが、それにはいそうですかと従ってやれるほど性格はよくない。
「ガープ中将はここにいるって知ってるの?ちょっと言ってきたら?」
「大丈夫、ぶっちゃけガープは私のこと探してないから。寧ろ探してるのはメガネくんだと思う」
ノルマだった掃除は朝早くに終わらせたし、筋トレも速攻で終わらせた。その際にコビーのメガネを隠して来たので、コビーに探されている可能性はある。
「早起きって何時に起きたの?若いね」
「だいたい2時ぐらい」
「あらら、それって朝に入んねェんじゃねぇの?」
名無しの言葉にびっくりしたように目を見開いたクザンは、時計を二度見してから頭を掻いた。
名無しからしてみたら2時起きなんてわりと普通なことだが、普通の人はあまり起きない時間らしい。
師匠には散々無視された挙句、物音が煩いと峰打ちされて無理矢理二度寝させられた思い出がある。
もう思い出すだけで殺意がわく。
「とにかく私は暇である」
「おじさんは結構忙しいんだけど」
「なに!?気は確かか!?」
「確かでしょ。だって大将だし」
当たり前だと言わんばかりのクザンだが、大量の書類を放置したまま外出しようとする姿は決して忙しそうには見えない。
寧ろ書類から逃げようとしているようだ。
「書類の整理は仕事じゃないわけ?」
「物事には優先順位ってものがあるでしょ」
「イヌもサルも書類整理に励んでましたけど。モモタロウどこー」
「……」
完全に言葉を詰まらせたクザンは、諦めたように大きな椅子に腰かけて脱力した。
いそいそと額に引っ掛けていたアイマスクをずらして、寝る体勢に入っているところを見ると完全にサボる気満々だったらしい。
こんなのが海軍大将だなんて先行きが不安にならないのだろうか。
「…名無しちゃん、事務仕事できる?」
「私が出来ると思う?見た目的に」
アイマスクを少し押し上げてちらりとこちらを覗き見たクザンは、なにを期待しているのやら。暇潰しのためだけにここにいるのに、事務仕事なんて出来るはずがない。
「出来そうには見えねェけど、念のためにね」
諦めたように再び脱力したクザンは、軽く手を叩いて名無しの方を見た。
見たと言ってもアイマスクをしているのでよくはわからないが。
「…手伝ってくれたら名無しちゃんの探してる刀の情報あげるけど」
「……」
「知ってるよ、名無しちゃんが本当に探してる刀のこと」
「はぁ!?馬っ鹿じゃねぇの!そんな挑発に乗るわけねぇだろゴラァ!書類全部私に寄越せや!!」
思い切り机を蹴り上げた名無しは、荒く息を吐き出してクザンの机に積んである書類をビシッと指差した。
「約束しろ!これ全部終わらせたら刀の情報寄越せ!」
やればできる子
「やっぱり出来るんじゃあないの」
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