頼まれていた刀の砥ぎを終わらせて、雀の涙程のアルバイト料を手にした名無しは、その足でマルコの部屋に向かった。
「マルコ!頼みがあるんだけど!」
ノックもなしにいきなりマルコの部屋のドアを蹴り開けると、蝶番がミシッと悲鳴を上げた。
だが、マルコの方からは見えていない筈だ。黙っていればバレない。
「お前の心の声でバレバレだよい」
「蝶番なんて気にすんなよ!そうだ!いっそのことドアを外したらどうでしょう?そしたら蝶番なんて気にならないのではないでしょうか」
「ドアを静かに開けるって選択はねぇのかい」
「ドアを?静かに?ハハッ!無理!」
「……」
無理無理と手をぶんぶんと振りながらマルコの提案を笑い飛ばした名無しは、少しだけぐらついたドアを足で突っついた。
蝶番に気をとられていて気がつかなかったが、マルコは着替えている最中だったらしく、ほぼパン一に近い格好をしている。
まあ、常日頃から露出度の高い男なので、然程気にはならない。
「ねぇ、パンツ。あ、間違えた。パンツ一丁のマルコ」
「なんだよい。覗き魔の名無し」
「お願いがあるんだけど」
「ああ、本当に残念だがそれだけは無理だい」
「せめて聞けよ」
お願い、と言う言葉に過敏に反応したマルコは、考える暇がないぐらいの間隔で断りを入れた。本題まで聞かないところからしてお願いじゃなくても聞くつもりはなかったのだろう。
飾りで付け足された残念の言葉が妙に苛々させる。
「聞いてほしけりゃ土下座でもしろよい」
シャツを羽織ながらいつも通りの台詞を口にしたマルコに、名無しはその場に膝をついた。
「土下座したら聞いてくれんの?何秒?頭擦り付けたらいい?靴舐める?」
「……」
「土下座でよけりゃ喜んでするから、とりあえず聞いてよ」
手を床について頭を床に向かって下げると、それを阻止するように首根っこを掴まれて引き上げられた。
勝ち誇っていると思っていたマルコの表情は、意外に険しく眉間にシワが寄っていた。
「あれ?身体が宙に浮いて土下座が出来ないぞ?こういう作戦か!?」
首根っこを掴まれたままバタバタと暴れる名無しに、マルコは小さく舌打ちをした。
憂う不死鳥
「やっぱりお前はムカつくよい」
「そりゃお互い様だ」
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